「椿くん!」
「名字さん…」
「なんでETUにいるって教えてくれなかったの!?」
 高校のときにわたしはサッカー部のマネージャーをしていて、椿くんは部員だった。わたしの通っていた高校はサッカーの強豪校で、何人もの部員がプロになった。椿くんもスカウトマンの目に留まった。そこまでは知っていたし、更に入団後サテライトに行ったところまでは彼から聞いていた。
 それなのに、ETUに上がったのは知らなかった。たまたま友人に連れられて試合を見にきて、ピッチに立っている椿くんがいた。わたしは試合が終わってすぐに、友人を置いて椿くんが出てくるのを待っていた。だから、待っていた彼を呼び止めたのは自然な流れだった。
「ごめん……」
「わたし椿くんのこと応援してるから、頑張ってね」
「ありがとう」
 わたしは今日の試合で彼のプレーに魅了された。高校のときから何かを惹きつけるものを持った人には感じた。でもそれはわたしが何となく感じていたもののように思ったけど、本当は彼は才能のあるプレイヤーに思える。きっと、いつかスタジアムいっぱいに彼を祝福する歓声が響くんだ。
「名字さん! お、俺のこと覚えてたんだね」
「だってマネージャーだったもん。だけど、今は椿くんのファンだからね!」
 それから椿くんは一瞬びっくりしたような顔をしたけれど、チームメイトに呼ばれてバスに乗り込んだ。
 なんか、顔つき変わったなあとか思うあたりわたしはマネージャー時代が抜けないらしい。
 どうか彼がまた活躍しますようにと夜空に願った。

2011/06/07