同じクラスの森山くんは、学年きっての残念な男の子で女の子と付き合いたくてナンパばかりだというのは周りの子みんなが知っていることだった。
 うちの学校のバスケ部は全国有数の強豪校なのによくそんな時間があるなあと関心していたのが第一印象。
 新学期が始まって席替えをしたことで、私は森山くんの隣の席になった。
今まであまり話したことはなかったけど、思ったより話しやすいし優しいもんだからちょっと驚いている。噂に聞く森山くんより実際に関わった印象はだいぶ違っていた。
「森山くんって何で彼女欲しいの?」
「うーん、彼女いた方が部活も気合い入るからかな」
「……意外。なんか女の子とイチャイチャしたいだけかと思ってた」
「そりゃしたいさ! でも今はいないしなあ」
 授業の合間、初めて聞いてみたことだった。理由なんて噂では流れてこないし、いっそのこと本人から聞いてみようと思っただけなのに、聞き出した私は何もえたものが無いように感じた。
 腑に落ちないって、こういうことなのかなあなんてぼんやり考えながら窓に視線を移した。最近は日中でも涼しい日が続いていて、開けた窓から気持ちのいい風が吹く。空も高くなっているのを眺めるのも悪くないな。
「名字さんは彼氏作んないのか」
「あはは、森山くんったらそんなヤボなこと聞かないでよ。知ってるでしょ?」
 最近、彼氏と別れたことなんてクラスの誰もが知っていることだった。夏休み明けこっぴどく振られた私は人目を気にせずに泣き腫らした目で学校にきた。おまけに、しばらく彼氏なんていらないと公言してたのだ。
 そんなこと聞かないでよ、そんなだから彼女の一人も出来ないんだよ。
 最近仲が良くなったのをいいことに嫌味の一言でも言おうかと思ったけれど、隣に視線を戻した瞬間言いよどんだ。
「俺なら泣かさないのにな」
「え」
「……あ! 今の無しで!」
 うわー、恥ずかしいなんて顔を隠しながら言う森山くん。そんなクサいセリフをクラスメイトの女の子に言っちゃうの。こちらなんて、まだ傷が癒えてないんだから変に期待させないでよ。余計苦しくなってしまうでしょ。
「ねえ、さっきのどういうこと」
「それは名字さん慰めようと思って……」
「ちゃんと言わなきゃわかんないよ?」
「言わなきゃだめか?」
 困ったように笑う森山くん。なかなかはっきりしない彼にもう少し強く問いただせば。
「あーもう、はいはい、降参です! 俺は名字さんのこと春から好きでした!」
「……っ!」
 頬の赤い顔で真剣に言われてしまえば、思ったよりかっこよくて、体中の血液がぐるぐる回るのと一緒に顔の熱があがる。しばらく彼氏なんていらないと思ってたのに、こんな簡単にぐらつく決意に嫌気がさす。
「……もっとかっこよく決めるはずだったのに」
 机に伏せてしまって、小さく、くぐもった声が聞こえた。しっかりと耳に入ってしまって思わず笑ってしまった。
「……やっぱり、笑ってる方がかわいいね」
 森山くんは私が笑っていたのをさっきの私同様に聞いていて、嬉しそうに言う。
 このまま森山くんに揺らいでしまって、簡単に新しい彼氏を作ったら友達に馬鹿だねと言われるかもしれない。それでも、森山くんの言葉信じてもいいかな。チャイムが 鳴る少し前にイエスを伝えれば、ばっちりと聞いていたクラスメイト達から拍手が沸き上がった。

2014/09/21