あの神獣さまはひどく女好きだ。だから、私なんかみたいに真面目な獄卒にだって甘い言葉をたくさんかけてくる。
「名前ちゃーん、今日ヒマ?」
「ヒマじゃなかったらここに薬なんか取りに来ません」
「夜もヒマじゃないの?」
「毎日残業です。てか、暇なのは白澤さまですよね」
「うん。だから、仕事終わったら僕のところ来ない?」
「………他の女の子をあたってください」
 どうせ白澤さまは何にも思っていやしないんだろうけど、私は声を掛けられただけで嬉しいのに。
 馬鹿でしょ?こんな見込みのない片思いなんてさんざんだ。とにかく離れたくて事務的に薬を受け取った。早く帰らないと鬼灯さまに叱られる。
 白澤さまはいつものへらりとした顔で待ってるよ、なんてとろけてしまいそうなくらい優しい声音で言う。
「行きません!!」
「知ってる、でも名前ちゃん、僕は待ってるからね」
 機嫌良さそうに笑う白澤さまに私はイライラする。どうせ私は大勢引っ掛ける女の子たちのうちの1人なんでしょう。わかってる。私は一介の獄卒で、白澤さまは神獣。雲泥の差がある。しかもあちらは性格に難あり。こんな人?妖怪?を好きになってしまったのはしょうがない。私だって、どうせなら見込みのある片思いをしたい。
 こんなので簡単に嫉妬してしまう私も嫌だ。
「白澤さまなんか大っ嫌いです!」
 こうやって自分の気持ちとは裏腹の言葉を投げて、閻魔庁へ戻った。

2012/06/24