彼を間近で見たのは面接の時だった。それまではメディアを媒体にした彼を見ていて、実際に会ってみるとまた印象が違う。ガチガチの私の目の前で、閻魔大王さまとコントのようなやり取りが交わされ、よく意味がわからないまま面接は終わっていた。終わるころには多分緊張がほぐれて何とかなった形には感じていた。出来の云々は除いたとして。
ああ、落ちたな。なんて、縁起でもないようなことを考えたり、しばらく落ち着かなかった。友達からは大丈夫だよなんて頼りない言葉しか言われない。あんなガッチガチの面接なんて、通らないと言われいるようなもんだよ。
 ぐるぐると頭の中がぐちゃぐちゃのまま法廷へ向かうと、途中で鬼灯様の姿が。
「こ、こここここんにちは!」
「あなたは……ああ、これから発表ですか?」
「……はい」
「じゃ、わたしはこれで」
 鬼灯様は去り際に、また会えるといいですねと呟いて行ってしまった。さすがにここでは言わないよね。やっぱり、落ちてるのかも。そんなことを思いながら私は向かった。
 重厚なドアはいつもと違って開け放たれていて、多くの獄卒がいる。
 友達は既にいて、ほら早く!と私を急かす。きっと私一人落ちるんだ。やっぱり気分は暗いまま。
 閻魔大王さまがバサッと一枚の大きな布を広げた。閻魔大王さまの横には当たり前のように鬼灯様が立っていた。
 布が広がりきった瞬間に悲鳴のような歓声のような声が響いた。
 私のは……。
「名前!名前!あったよ!」
「え!!?」
 友人に言われて気づく。あれ、私の名前が先頭にある。ん?先頭!?
 嘘、でしょ。
「さすがだねー名前」
「いやいや、嘘でしょっ!?」
「本物、正真正銘名前の名前でしょ」
 友人の言葉が信じきれず頬を目一杯つねって、ぱしぱしと顔を叩いて、確認した。やっぱり私の名前がある。びっくりしすぎてへにゃへにゃと座り込む。あんな、面接だったのに、成績そんなに良かったけ?
 クエスチョンマークが大量に頭に浮かんだ。
「おめでとうございます名前さん」
「ほ、おずき、さま」
「ちょうど、直属に優秀な部下が欲しいとこでした」
「え、」
 いつの間にか近づいてきていた鬼灯様。展開に頭が追いつかない。えと、つまり、それって、補佐官の補佐ってことだよね。
 あれ、それで合ってるのかな?
「よろしくお願いしますね」
「……はい」
 どうやら合っているらしい。相変わらずへにゃへにゃの私の手を掴んだ鬼灯様はぐいっと引っ張って、少し、目を細めたように感じた。

2012/07/29