05



「前からと後ろから、どっちがいい?」
恐怖で何も考えられない。涙のせいで視界が鮮明ではない。どうにか落ち着こうとトキヤは息を吐こうとするも、口を押さえられているせいでうまくいかない。もう少し時間があれば、そうしたら何がなんでも気持ちを落ち着かせるとトキヤがぎゅっと目を閉じていると、男の後ろから何人もおなじ顔がひょこりと現れた。
「なんかその言い方、やらしーよ」
「何考えてるの?」
「もっと別の言い方あったんじゃない?」
次々と喋りだす同じ顔の男たちに、トキヤに跨る男は「もうここは大丈夫だから他の分身たちがいるところ戻って加勢してきて!!」と怒っていた。加勢ということは、真影と翔ノ助はこいつの分身と戦っているのだろうか。ここにいる分身だけでも3人、一体2人は何人を相手にしているのだろう。そんなことを考えていたら、トキヤの気持ちはだいぶ収まってきていた。恐怖がないわけではないが、先ほどからずっと溢れていた大量の涙の量が少し減っている。
「で、お姫様どっちがいい? 前からこれが振り下ろされるところ見てるのと、後ろから見えない状態と」
男の眼光は鋭さを放ち先ほどとはまったく違ったが、トキヤもだいぶ落ち着いてきた。口を塞ぐ男の手のひらにがぶりと噛みつき、勢いよく上体を起こす。
「っ」
男が怯んだ隙に下から抜け出し距離を取る。
「んー?」
そんなトキヤの様子をまじまじと見て、男は頭にハテナマークを浮かばせた。
「もしかして、本物のお姫様じゃない?」
ぴくりとトキヤが反応する。
「やっぱりかー。まあでも、このまま殺しちゃうのも勿体ないくらい綺麗な子だし持ち帰って情報聞き出す感じでいいよね!うん!そうしよう!俺、この人殺したくないもん」
目の前のこいつが何を言っているのか分からない。今のうちに逃げなければと思うのに、トキヤの足はとうとう限界を超えたのか動けなくなっていた。
「あー……待って怯えないで。もう殺したりしないから大丈夫」
男は瞬時にトキヤの背後にまわり、布で口を塞いだ。
「おやすみ、怖い思いさせちゃってごめんね」
耳に男の唇が触れる。トキヤの意識はそこで途切れた。