09
トキヤの上に乗ったまま、すっかり涙のひいた顔でそれにしてもと音也は言う。
「トキヤなんて、かっこいい名前だよね。男の子みたい」
「……は?」
トキヤは思わず音也衛門を見る。
「え? 俺なんかまずいこと言った…?」
音也もトキヤの纏う雰囲気が伝わったのか、慌ててごめん! と謝ってくるが、トキヤにはそんなもの聞こえていなかった。私を抱きしめたときに気付かなかったのか。一度ならず二度も私の上に乗っているにも関わらず、女性特有の柔らかさがないことに違和感は持たなかったのか。
「あの、音也衛門、さん」
「あ、俺本当の名前は音也だよ。絶対にバラしたって内緒だけどね」
そんな秘密をこんなに簡単に話していいのかとトキヤは呆れた。古くからの友人である真影や翔ノ助でさえも本名を教えてくれたことはない。忍者というのは正体を知られてはいけないのだと思っていたのだが。
「では、あの音也さん」
「おとや」
「……音也」
「なに?」
めんどくさい、トキヤははっきりとそう思ってしまった。
「私は、女性ではありませんよ」
「…………………………………………は?」
今度は音也衛門が目をむいた。え、え、と混乱する音也衛門を見て、トキヤは自分の着物に手をかける。すると音也衛門がわー!! と声をあげながらその手を制止してきた。
「別に、男同士です恥ずかしいものでもないでしょう」
「ち、違うのそうじゃなくてっ」
ちらり、と音也衛門がトキヤを伺う。なんですかとなるべく優しく問うと、小さな声で返事が返ってきた。
「……俺が脱がせても、いいですか」
そんなことか、と正直思った。けれどきっと音也衛門からしたら大きなことなのだろう。
「ど、うぞ…」
しかしどうにも脱がされるという感覚に慣れなくて、思わずトキヤも照れてしまった。ゆっくりと音也衛門が着物をはだけさせる。あらわになったのは紛れもない男の胸で、普段なら恥ずかしくもなんともないこの状況にトキヤはどうしようもない思いでいっぱいだった。脱がされて、まじまじと見つめられて、羞恥で顔が熱い。
「も、もう分かったでしょう!?」
着物を直そうとした腕はまたしても制止され、音也衛門はぽうっとした瞳をしながらあらわになったトキヤの素肌を撫でた。
「ちょ、なにして」
「男でも、構わないよ。きれい」
するすると撫でられる感覚が初めてで、トキヤは目をぎゅっとかたく閉じた。音也衛門の手は一向にとまる気配をみせずに、時折手が胸の尖りを掠めていくとそれだけでん、と声が出る。これはなんなのだと、トキヤの頭はぐるぐるしていた。
「トキヤ…」
すすっと音也衛門の手が下腹部へ動く。そこでトキヤははっと我に返った。熱でぼうっとしていた思考が戻ってくる。
「やめなさいっ!!」
ばしん、と思い切り音也衛門の頭を叩く。音也衛門は暫くぽかんとしていたが、そのうちはっと我に返ってごめん!と急いで着物を直した。
「ごめん、ごめんほんとにごめん!!」
顔の前で手を合わせて必死に謝る姿に、トキヤはため息をついてもういいですと答える。
「ほんとにごめんね」
「いいですよ、大丈夫です。少しおかしかったんですよ、あなたも私も」
着物をきちんと直して、トキヤは音也衛門を見る。この男は自分のことが本気で好きなのだ。下手なことをすれば本当に襲われる。どうしたらいいのかと考えていると、そういえば、と音也が金属の枷を取りだした。