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主に撫でられて幸せそうに笑うアイツが嫌いだった。主の為にと着飾るアイツが嫌いだった。
「安定、洗濯物畳むのを手伝ってくれますか」
「いいですよ」
たまたま通りがかった僕を主が呼んだ。加州清光率いる第一部隊は、傷を負っている僕を入れ替えて出陣中だ。ちょうどいいと思った。アイツがいなくて、かつ主と二人きりになれるこの瞬間を待っていたのだ。
「主が僕を呼ぶなんて珍しいね。短刀の子たちは?」
「今日は彼らに別のことを頼んでいますから」
「そう」
皆の衣類を手際よく主はたたんでいく。ふと、主がアイツの衣服を手に取った。だからといって何かあるわけでもなく、主は他の物と同じようにそれをたたんだ。
「安定、どうかしましたか? 手が止まっていますが」
どうやら僕の手は動いていなかったらしい。なんでもありません、と言おうとして、やめた。僕の唇は、嫌いなアイツの名前を呼ぶ。
「加州清光」
主が動きを止めた。
「清光が、どうか?」
にこりと主が微笑む。アイツは、この綺麗な笑みが好きなんだろうか。どこか儚さを孕んだこの笑みが。
「いや、あいつ、あんまり思わせぶりなことすると勘違いして調子乗るから」
だからアイツに不必要に構うのやめろ、と思って気付いた。これでは僕が嫉妬しているみたいだ。僕は今の主に媚びるアイツのことなんて好きじゃないし、今の主が好きなどということはあり得ない。だって沖田くんは超えられない。僕の主は沖田くんなんだから。主はきょとんとしていたが、暫くするとふふ。と笑った。
「清光とは初めからずっと一緒ですから、特別な情があるのかもしれません」
口の中が急激に乾いた。
「それ、って」
発した声は震えている。
「勿論、あなたも含めて、失いたくない大事な刀ですが」
「……アイツのこと、好きなの」
「さあ? ただ、彼に好意を向けられて悪い気はしませんよ」
もう聞きたくなかった。自分の中でどういう感情が渦巻いているのか分からない。僕は何を思ってこんなことを聞いたのだろう。何が聞きたかったのだろう。僕は思わず持っていた衣服をぎゅっと握りしめていた。かたく閉じられた拳に、皺になりますと主の手が重なる。
「っ」
「ただ、清光はきっと、あなたが思っているような思いを私に抱いてはいません」
そんなことはない。アイツは主のことが好きなのだ。大好きで大好きで仕方がないはずだ。
「でも」
「清光は、ただ捨てられたくないだけなのです」
それは違うと言い切れる。アイツは確かに主のことが好きなのだ。アイツの思いをなんで主は分かってくれないんだ。非難の意を込めて主を睨む。主はそんな様子を気にも留めず、いつも通り微笑んでいた。
「私はもう、何があっても清光を捨てられません。たとえ、どれほどあなたが清光のことを思っていても」
「……え?」
突然のその言葉に耳を疑った。
―――――誰が、誰を思っていると。
「安定は嫉妬していたのでしょう? 視線で分かりますよ。あなたは確かに私の知らない清光を知っている。絆も深いでしょう。けれど、どうしても、もう譲れないんです」
「あ、るじ……」
拳に重なっていた主の手に力が込められる。この人が心の奥底に隠している片鱗を感じたような気がして、怖くなった。
「安定」
視線がかち合う。逃れられない。
「清光や皆には、今日話したことは秘密ですよ」
分かった、と頷くことしかできない。きっとこの人もアイツと同じなのだ。今までに戦場で散っていった刀の声を聞いて、心が押し潰されてしまったのだ。主はアイツに捕らわれているように見えてそうじゃない。主は手放すまいとしっかりアイツの手を握っている。そう理解しただけで胸が気持ち悪かった。僕もアイツに捕らわれているだなんて、考えたくもなかった。