確信犯



悩みがあるんだ、と珍しく深刻そうな声がしたものだから、トキヤは文字を追っていた視線を音也に移した。音也は机に向かって座るトキヤのすぐ背後に立っており、案外近くにいたことにトキヤは驚く。
「……悩み、ですか」
「うん」
普段へらへらと笑みを浮かべている音也はどこへやら。俯いていて表情を正確に読み取ることはできないが、浮かない顔をしているのは確かだ。
「私でいいのですか」
「もちろん、てかお前じゃないとだめなんだ」
「……」
久々にお前と呼ばれて、これは本当にいつも通りではないとトキヤが腰をあげると、音也はトキヤの腕を引いて自分のベッドへ向かった。何か意味があるのだろうとトキヤはそれに大人しく従い、ベッドの端に2人で腰掛ける。
「で、悩みとはなんです」
ベッドに腰かけても、音也はトキヤの腕を離さなかった。トキヤもそれを拒もうとはせずそう聞くと、腕を掴む指に力が入る。
「……ゆっくりでいいですよ。話せそうになったら話してください」
普段の雰囲気とはまったく違う音也に、トキヤ自身少し戸惑っていたのかもしれない。いつもであればさっさと話しなさいと言うところだが、今日はそれができなかった。暫く黙ってその場で待っていると、音也が意を決したようにばっと顔をあげる。
「あの、トキヤ、俺!」
「は、い」
力強く口を開き出した音也は、トキヤの肩をがしりと掴んだ。
「どうしても、我慢できないことがあってね」
「はい」
「俺のお願い、聞いてくれる?」
これから何を言われるのかまったく予想できず、トキヤはどうぞと言うしかない。音也は一度目を瞑り、大きく深呼吸をした。そして目を開け、意を決したように声を出す。

「トキヤに、ぶちまけてもいい?」

真剣な顔でそう聞いてくる音也に、トキヤは若干戸惑いつつ答えた。
「ですから、どうぞ」
「え、ほんとに!?」
「……今日だけ特別ですよ。なんでも聞いてあげますから」
トキヤがそう言うと、聞いた本人がぽかんと口を開けていた。早くなさいと睨みつければ、音也はへらりと笑う。いつもの音也の雰囲気に戻った様子に、先ほどまでのあれはなんだったのだと思っていると、掴まれている肩にそのまま体重がかけられて、トキヤはベッドに仰向けに転がされる。
「……音也?」
「ぶちまけてもいいん、だよね? もうダメって言っても遅いからね?」
音也に見下ろされて、そこで初めてトキヤは自分の間違いに気付く。具体的に何を間違えたかは分からない。これから何をされるかまったく予想はつかないが、それでも嫌な予感が止まらない。
ギラギラと力強い瞳が、トキヤを捉えていた。
「ちょ、音也止まりなさい!」
「だめ、もうむり」
音也はトキヤの肩のあたりに両膝をついて、そのまま腰をおろした。上半身を圧迫されたことによる苦しさがトキヤを襲う。
「なんですかこれは!」
先程音也はなんと言ったか。トキヤは必死に頭を働かせるが、まるで何も浮かんでこない。そんなトキヤを見下ろして、音也は楽しそうに笑っていた。
「ほんとに夢みたいだよ! 引かれたり絶交されたり覚悟で言ったのにさ、こんなにあっさり許可貰えるんだったらあんなに悩む必要なかった!」
音也が頭上で何か話しているが、トキヤの耳にはあまり聞こえていなかった。自分の目の前にあるものにばかり視線が行ってしまい、それのことしか考えられなかったのだ。
「お、音也!!」
「ん? どうかした?」
「何故ベルトを外すんです!?」
「なんでって、え?」
カチャカチャと音がして、音也の下着が見える。髪と同じ、真っ赤な色をしていた。
「これねトキヤ、勝負パンツなんだよ〜」
「そんなことどうでも、」
「はいお口チャック」
むに、とトキヤの唇に何かが押し付けられる。トキヤが視線を頭上の音也へと向けていた少しの時間に音也は下着をずらし、自らの雄をトキヤの唇に押し付けたのだ。
「え……お、とや」
「フェラはまた今度ね」
音也はやはり笑っていたが、それもまたいつもの笑みとは違うような気がして。トキヤは今までの会話がまったくかみ合っていなかったことを再確認した。しかしこの状況で正常に頭を働かせることは難しい。どこで自分が間違えたのか、今後の為にも確認しようと音也に問う。
「あの、あなたの悩みとは…?」
それを聞いた音也は、にんまりと笑った。
「トキヤにどうしてもぶちまけたいんだけどいいかな?」
トキヤはついに理解した。理解はしたが、それでもこの状況を受け入れることはできなくて、一応聞いてみることにした。
「その……ぶちまける、とは」
音也はそろそろ気付いてくれた? と笑う。作戦がうまくいったときの嫌な笑みだった。こいつ、すべて計算済みだったのだ。
「お前の顔、俺のせーえきまみれにしちゃいたいんだ」