だれのもの
トキヤはその甘い香りを堪能するように女性の首元に顔を寄せた。抱き寄せる感触は柔らかく心地いい。「いちのせ、さん」と控えめに名前を呼ばれたので、なんです、と笑みを返した。
「恥ずかしいので……その、あまり」
「どうして? とても甘い香り、私は好きですよ」
すん、とトキヤが鼻を鳴らせば、女性はくすぐったそうに身を捩った。そんな戯れをベッドの上でしていたときだ。鍵をかけていたはずのドアがガチャガチャと乱暴に開けられ、そしてすぐ「トキヤ」と低い声がした。
「……随分と、早いんですね」
「お前と違って俺は遊び上手なの」
女性はトキヤから離れることなく、一十木くんと呟いた。トキヤは女性を抱き寄せていた女性を一旦離し、その手を取る。
「ごめんなさい、邪魔が入ってしまいました。また連絡します」
ちゅ、と手の甲に唇を落とすと、女性は恥ずかしそうにそそくさと部屋を出て行こうとする。しかしこれだけはと思ったのか、玄関のドアを閉める前に振り返った。
「あの、一ノ瀬さん」
「はい?」
「一十木くんとは、どのような…?」
トキヤはその問いに、当たり前のように答える。
「……恋人ですよ」
思ってもいなかった予想外の答えに女性はかたまってしまう。すると音也がイライラした様子で「あーもう!」と女性の前に立ち、言った。
「俺とトキヤは付き合ってるの。分かったら邪魔しないで。トキヤは俺のだから」
そして未だ呆然として動けない女性の目の前で、ばたんとドアを閉めた。きちんと鍵もかけたようだ。そしてトキヤに向き直った音也は、とても不機嫌そうな顔をしていた。
「お前遊ぶのへたくそ」
「そうでしょうか」
音也はそのままベッドへ向かい、先程まで女性と戯れていたベッドに仰向けに転がるトキヤを見下ろす。
「お前が連れ込んだやつ、男でも女でもみんなお前に本気じゃん」
「私、あなたみたいに浮気ですって宣言して遊ばないんです」
ばかじゃないの、と音也はトキヤの頬に手を添えて顔を近付ける。
「約束、守ってる?」
「ええ、もちろん。唇を許しているのはあなただけですよ」
お互いの顔が近付いて、ちゅ、と触れるだけのキスをする。音也はそこで顔をしかめて、けれどもう一度、今度は深いキスをした。
「ん、っ」
トキヤの口内に舌を入れれば、トキヤも積極的に絡めてくる。絡み合う舌の感触が心地よくて夢中になっていると、苦しくなったのかトキヤが音也の髪を引っ張った。
「痛いよ」
「っすみま、せん」
頬を紅潮させて呼吸を乱して自分の名前を呼ぶトキヤは、俺だけのもの。トキヤの唇が唾液でぬらぬらと光っているのを見て音也は笑った。
「なんです」
「なんでもないよ。それより、ね」
音也は先ほどトキヤが女性にしていたように、トキヤの首元に顔を埋めた。
「やっぱり、あの女のにおいする」
「……あなただって、女性のにおいがしますよ」
「ん、俺のにおいつけたげる」
お前は俺のもんだから、と音也がトキヤの肌に吸いつく。
「ええ、消毒してください」
トキヤはぎゅ、と音也の首に腕をまわした。