よごしたのだあれ



「け、謙也さん…? ちょっと落ち着きましょうよ、ね」
部活が終わっていつものように着替えていたときだった。それは突然やってきたのだ。「財前」と声をかけられて、振り向けば見たことのないくらい切羽詰まったような謙也がいて。なんすかと口を開く前に財前はロッカーと謙也の体に挟まれた。押し返そうと突っ張った指を絡めとられて、所謂恋人繋ぎという状態になったままロッカーにはりつけられる。
「あの…何がしたいんスか?」
腕を通しただけのカッターシャツは財前の上半身を隠すことなく謙也の前にさらしていた。謙也の視線が熱っぽくなっていくのが分かる。ふと視線をずらせば部室に唯一残っていた白石が出ていくところだった。部長、と助けを求めようとしたそのときだ。タイミング悪く謙也が口を開く。
「財前」
白石がごめんなと笑ってバタンと扉を閉める。
「なん、スか」
一回でええねん、そう言って謙也はぐっと自分の反応し始めている股間を財前のそれに押し付けた。
「……は!? 謙也さん何考えとるん!?」
これはあれだ、貞操の危機だ。そう理解した財前が力を入れて抵抗をするが、謙也はびくともしなかった。
「一回でええ。セックスしよ」
「は、え……?」
むき出しの財前の肌にちゅ、と唇を落とす。感じたことのないであろう感覚に財前はびくりと肩を揺らした。
「嫌やったら、何してもええで。逃げてや」
逃げてや、とか言いながら離してくれないのはどこのどいつだ。逃がす気なんてないくせに。財前は観念して固く目を閉じた。



ちゅ、ちゅ、と首筋に謙也の唇が触れて、財前はその度に体を震わせた。もちろん今までこんなことをされた経験はないし、男と経験することになるなんて微塵も考えたことがなかった。一体この人は何を考えているのだろうかと財前は思う。首筋に触れていた唇がだんだんと下におりていって、待てと口を開こうとした時だ。
「っあ、」
自分でも聞いたことがない声が漏れて、財前はぽかんとしてしまう。声を発しようとしたときにたまたま謙也の唇が胸の突起に触れたのだ。謙也は表情を動かさない財前を見て、耳に唇を寄せた。
「……感じたん?」
その瞬間耳まで真っ赤に染めた財前は、謙也につかまれている腕に思い切り力を込めて暴れ始めた。
「も、謙也さん…!」
「今更暴れられてももう離せへんよ」
ぐ、といっそう力強く財前の腕をロッカーに繋ぎ止め、謙也は再び突起に舌をはわす。乳輪をなぞるように優しく舐めた後は、ちゅ、と音を立てて突起に吸い付いた。ひくりと喉を震わせる財前の体から力が抜けていくのが分かったが、何をされるかわからないので手を離すことはできない。胸への刺激だけで財前をどろどろに溶かしてしまわなければ次には進めない。
「謙也さ、ん、っあ……あう、」
最初こそぎり、と唇をかんで声を我慢していた財前だが、次第に声が漏れるようになってきた。ふと視線を下にやると財前のそれも反応を示していて、もぞもぞと足をすり合わせている。
「財前、前辛い?」
「ん、ん……っ」
ぐりぐりと膝で刺激してやれば、財前は瞳をぎゅっと閉じてその刺激に耐えていた。
「一緒に、気持ちようなろな」
そういえばまだキスをしていなかったと、謙也は財前の唇に触れた。謙也さん、そう呟いた財前にもう抵抗の色はないような気がして、腕を解いて財前を抱きしめる。
「財前、後ろむき」
すんなり後ろを向いた財前にロッカーに手をつかせ、謙也はスピードスターよろしくスラックスのベルトを手早くはずして下着ごとおろした。そのまま財前のそれをゆるく刺激してやれば、向こう側からはぁと湿った吐息が零れる。
「謙也、さんっ…」
先ほどから普段よりたくさん名前を呼ばれている気がする。謙也はそれがとても嬉しくて、無意識にだろうが足りないと自ら腰を振る財前のご要望にお応えする。
「ん、イってええで、光」
耳に舌を這わせながら扱く手を激しく動かせば、かくかくと財前の膝が悲鳴を上げ始めた。
「は、んぁっ、あ、あ、あ」
ついに財前の膝が折れて謙也にぐったりともたれかかる。それでも財前は何を思ってか「謙也さん」と声を掠れさせながらも呟いていて、やはりここでは終われないと財前を床に押し倒した。
「ごめんな光、やっぱり止められへん」
財前の精液でどろどろになった指で蕾をなぞる。財前はびくりと謙也を見たが、やめてとは言わなかった。たぶん賢いこの子は、もう何をされるのか分かってるのだと思う。
「痛かったら言ってな」
つぷ、と一本指を侵入させると、財前の体が当然のように強張った。ぎゅ、と瞳を閉じる財前の額に口づけて、「力抜いてな」とできるだけ優しい声色で言えば、財前はうるんだ瞳で謙也を見た。
「謙也さ、」
まただ。何故か財前は妙に自分の名前を呼ぶ。財前はこの行為に、何を感じているのだろうか。そう考えながらもゆっくりと財前の中で指を動かす謙也は、財前の腕がゆるゆると動いていたことに気が付かなかった。財前の腕が謙也の頬に触れたとき、思わず謙也がびくりとしてしまう。そのせいで中に入っていた指が前立腺を掠めたらしく、財前は一層高い声をあげた。
「ざ、財前?」
「は、ん……謙也さん、」
キス、してください。確かに財前はそう言った。一体財前が何を考えているのかまったく謙也には分からなかったが、その瞬間自分の中で何かが弾けたような気がした。