あなたのもの
ぐちゅぐちゅと部屋に水音が響く。財前はシーツを咥えて、自らの手で与えられる刺激に耐えていた。
「っ、ん、ん……」
先走りの液が分泌され始めてから数分、今までなら既に射精を迎えていてもおかしくなかった。けれど財前の体は、もう以前とは違う。
「んん、」
やはり前だけでは射精を迎えるほどの刺激にはならない。けれど体が快楽に支配されるには十分である。財前は震える指を自らの後孔に伸ばし、既に先走りでどろどろになったそこに突き入れた。瞬間、何かが弾けたように財前の体を駆け巡る。これだ、この刺激だ。
「う、ん……っ」
財前は一心不乱に突き入れた指を動かす。水音はより音量を増して聴覚を支配していた。そして思い出す、いつも自分の体を支配する男のことを。
――――財前。
脳内で名前を呼ばれただけで、自分は今も彼に支配されている錯覚に陥る。勿論ここに彼はいない。けれど、脳内で思い出された記憶に存在する彼は確かに財前の体を支配している。
「あ、あ、けんや、さっ……」
くる。じわりじわりと押し寄せていた快感の波が膨れあがって、襲いかかってくる。
「あ、あ、あ、あう、うう」
しかしその波は、財前の体を飲み込むことはできなかった。なんで、なんで、なんで、財前の頭にはそれだけが渦巻く。快感がもどかしい。だしたい。イきたい。もっと気持ちよくなりたい。そんなことは思っても口には出さないけれど、でもこの快感はもう苦痛でしかない。
財前はどろどろの手で携帯電話を掴み、彼を呼び出す。ここで空振りに終わったときのことを考えるとつらくて、必死に早く出ろと彼を急かす。
『ん、財前? どないし』
「けんや、さん」
はあ、と吐息が漏れる。電話越しにでも、彼の声を聴くだけで、こんなにも。
『財前?』
「けんやさん……おれ、」
財前が今どういう状況にあるか知らない彼はひたすら財前の名前を呼んだ。どうしたん財前。何かあったんか財前。大丈夫か財前。財前はその声をききながら、再び手を伸ばす。再度水音が響きだした。
「は、ぁ……ん」
財前は電話越しにがたりと彼が音を立てたのを聞いた。これで彼も理解したかもしれない。今現在、財前が電話越しにしていることを。
『財前……?』
「けんやさ、ん、はよ、はよきて……! おれ、おれけんやさんおらんと、イけへん……!」
がたがたと電話の向こうがうるさくなる。きっと彼は数分でここに辿り着く。そしたらやっとこの地獄から解放されるのだ。財前はもう一度シーツを咥えなおして、携帯電話を離して再度後孔に指を突き立てた。