01



「影武者を私に、ですか」

ある日城に呼び出されたトキヤは、この国の将軍であるその人から娘の影武者になるよう命を受けた。





トキヤの朝はいつも5時頃に始まる。それは城下町で暮らしていた今までも、そして影武者としてこの城で生活し始めてからも変わりはしなかった。
「相変わらず早いな、貴方の朝は」
上体を起こしてぼんやりと窓の外を見ていると、襖が開けられてある人物が部屋に入ってくる。この城を守る護衛の一人、早乙女流の忍である真影だった。
「真影さん、おはようございます」
「おはよう。起き抜けのところすまない。例の話だ。調べがついた」
トキヤが影武者としてこの城で生活するようになったのは昨日のことである。護衛の一人として真影を紹介されたトキヤは、なぜ急に影武者を立てることになったのか、そしてなぜ自分に白羽の矢が立ったのか、それを探るようお願いしていた。
トキヤは元々、この城で生活する家来のものたちとは家庭の事情で繋がりがあった。そのおかげでトキヤの家族はこの城の中で家来として働きながら生活をさせてもらい、城下町に一人住んでいたトキヤもそのお金で生活させてもらっていた。今回の影武者の命を断れば自分たちの生活が危ういため最初から受け入れるしかなかったのだが、何故自分が影武者にならなければいけなかったのかくらいは教えてくれてもいいだろうと思ったのだ。
「分かったんですか?」
「ああ。だが……本当に聞くか?」
城に出入りすることも少なくなかったトキヤは、真影がとても優しい忍者だと知っている。彼が言い辛そうにするということは、そういうことなのだろうとトキヤは一人納得した。
「大丈夫です。まあ、なんとなく予想はしていましたので、どうぞ」
トキヤが微笑んで促すと、真影は重たそうに口を開いた。
「我々と敵対している謝意忍具流の忍者に、姫の暗殺命令が下ったようなのです」
やはり、とトキヤは驚きもしなかった。だがしかし、疑問はもうひとつ。
「それにしても、何故性別の違う私に? 女性の方がまだ騙せたのでは」
「……そこまでは。すまない」
真影が申し訳なさそうに俯いたところで、再び襖が勢いよく音を立てて開いた。
「男の方が何かあったときに力もあるし、自力でなんとかしてくれって言ってもやってくれそうだからじゃねえの」
開けた襖に背中を預けてそう話すのは、もう一人の早乙女流忍者である翔ノ助だった。
「翔ノ助! 誰に聞かれているかも分からぬのにその口のきき方は関心せんぞ」
「だったらお前らだって影武者がどうこう言ってたらヤバくね?」
と、翔ノ助は部屋に入りトキヤの傍まで寄ってくる。
「久しぶりだなトキヤ、元気にしてたか」
「ええ。まさかこんな形でまた会うとは思ってもいませんでしたが」
再会を喜びながらも、真影と翔ノ助の心情は複雑だった。自分たち2人は姫専属の護衛であったので、影武者になったトキヤの護衛にももちろんつくことになる。自分たちがしっかり守れば、大切な友人を失うことはないと分かってはいるけれど、相手も同じ忍者。容易に倒せるものではないと知っているからこそ、常に不安は付きまとっているのだった。