運命はここから動き出す



心地よい温かさだった。土方は意識が曖昧なままその温かさに擦り寄る。そしてその直後、「ぎゃっ」という声が聞こえたと同時にベッドの下にドスンと落下した。
「いってぇ……」
受け身も取れずにそのまま落下した土方が体をさする。痛みのおかげで意識が完全に覚醒した土方は、ふと考える。何故自分はベッドから落ちたのか。いつも布団で寝ているはずの自分がこんなところから落ちるなんて有り得ない。土方は視線を上に向け、確かに自分はベッドで寝ていたのだと確かめる。それと同時には? と口をぽかんと開ける。
「……なんで、テメェがいるんだ?」
ベッドの上には自分を突き飛ばしたのであろう男、万事屋こと坂田銀時の姿があったのだ。
「な、なんでもなにも……お前こそなんでこんなところに……」
そう言った銀時の姿を見て、土方は更に混乱する。彼は裸だったのだ。そして土方も銀時に指摘され、自分の姿に気付く。
「それよりもそれ、とととりあえず隠してくんない!?」
それ、と指を指されて自分の姿を見る。土方は自分も銀時と同じように何も纏っていない裸の状態であることを確認し、ベッドの上のぐちゃぐちゃのシーツを手繰り寄せた。


昨日自分が身に着けていたであろう衣服はベッドの下で銀時のものと一緒に散らばっていた。応急処置的に体にシーツを纏わせた土方は、衣服を手繰り寄せながら口を開いた。
「……で、なんで俺らは2人とも服を着てねえんだよ」
土方が発した声は落ち着いていた。あらゆる可能性を考えようとして、今は何も考えたくないと思考を放棄することにしたのだ。そんな土方の問いに対して、銀時はベッドの上で勢いよく上体を起こして土方を見た。
「んなこと言われても知らねえよ! なんでお前がここにいんの! しかも裸で!」
「分からねえから聞いてんだろうがこのクソ天パ! ……あ?」
銀時も相当混乱しているのだろう。何も分からないのはお互い様だというのに、お前が悪いと言わんばかりに急に声を荒げて怒りだした銀時に、土方は当然のように応戦しようとした。そしてその瞬間、違和感に気付く。
「お、おいおいなんだよ……?」
ひくり、と土方の喉が引きつった音が聞こえたのだろう。銀時は俯いてぴたりと止まった土方に声をかける。「おーい」と何度か声をかけるが土方は動かない。どうなっているんだと銀時がため息をついたそのときだった。
「お前、なにした」
「……はい?」
土方が低い声で問いかける。
「だからお前、何しやがった」
「な、なにって……なに?」
土方がゆっくり顔をあげる。その顔は盛大に引きつっていた。
「ケツの穴が、あり得ないほど痛ぇんだけど」
「……は?」
時が止まる。お互い視線を逸らせずに、そのまま数秒が経過した。そしてその静寂は銀時によって破られる。
「ままてまてまてまておおおおおつつけ!」
「テメェが落ち着け! まじで何しやがったテメェ!?」
「嘘だ!! こんなの嘘だ!! 夢だ!!」
「ふざけんな歯くいしばれ!!」
昨晩2人の間に何が起きたのか、思考を放棄したはずの土方の脳内が最悪の結論に達してしまった。その結論通りであれば、自分には彼を思い切り殴る権利があるはずだ。そう思って銀時に向かって拳を振り上げる。銀時はその拳を受け止めて必死に叫ぶ。
「ちょ、ほらあれ! 昨日土方くんが厠で頑張っただけかもしれない! 頑張りすぎちゃっただけかもしんない!!」
銀時のその言葉に、土方は目を見開く。その可能性がまだあった。拳から力を抜き、銀時もその様子にホッと一息をついたその時だった。悪夢はまだ終わっていなかったのだ。再びぴしりと固まった土方が暫くして発した声は、弱々しかった。
「よ、ろずや……」
「なに、なんなの……」
土方が足を見せつけるように纏っていたシーツをめくる。なんだよと土方の足を見た銀時は声を失くした。土方の太ももに、何かが伝っていた。それは土方の足を伝ってどろりと床に落ちる。
「……お前、これ、どっから…………」
銀時の声が震えていた。その問いかけに、土方は絶望的な声で答えた。
「ケツの、穴から……」
先程土方の脳内で出した結論が正しいことが証明された。決定的な証拠だった。それが分かったときには、土方にはもう殴りかかる気力すら無かった。