空気を読まない男が2人



長らくお互いに顔を合わせない日が続いたこともあり、銀時はあの日犯した一夜の過ちについて、もう過去の出来事だと頭の隅に押しやることに成功していた。テレビや新聞で土方の姿を見ることはあっても、長期間ここまで直接顔を合わせないというのは珍しい。恐らく土方が敢えて銀時に会うのを避けているのだろうことは容易に推測できる。最後に顔を見た日から一カ月半くらいか……と銀時はなんとなくカレンダーを見て、我に返る。
「っっっなんでだ!!!!」
ダンッ、と机に勢いよく両手を付いて叫べば、万事屋の従業員である2人がきょとんとした顔で銀時を見る。
「どうしたんですか銀さん。急に大声出して」
「自分のマダオさに気付いて絶望したアル。気にしなくていいネ」
長年一緒にいるとこうも扱いが雑になるものか。銀時はなんでもねーよと溜息を吐いた。何故自分が土方に何日会ってないと数えなければいけないのであろう。銀時が「あー」と言いながらソファに丁度腰をおろしたそのとき、万事屋に来客を知らせる音が響く。
「はーい」
新八が当たり前のように出迎えに行き、銀時はいつも通りソファに座って待っている。と、玄関から「こんにちは!」と聞きなれた声が聞こえた。ついで真選組の方々がどうのこうのと話す新八の声。あの挨拶は恐らくジミーくん、そして新八が方々と言ったということは。
銀時はなんだかそわそわした気分になっている自分に気付き、今度はぎゅっと自分の手の甲をつまむことで我に返る。何故自分がそわそわしなくてはいけないのか。来るなら来やがれと心を落ち着かせる。そう、いつでも土方に会う準備はできているというのに、一向に新八は戻ってこない。
「新八なにしてるアル」
「……ちょっと様子見てくるか」
神楽の一言で銀時はよっこらせと立ち上がった。そして玄関に向かうと、そこにはやはり新八と肩を並べて地味なジミーくんがいた。2人でなにやら話していたが、銀時が現れたことでそれも終わる。だがそこは銀時にとって気になることではなかった。恐らく玄関の横に姿が見えないよう凭れているのであろうが、もう一人、いる。
「こんにちは万事屋の旦那。ご無沙汰してます」
ほら副長も挨拶くらいしたらどうですか、山崎が玄関の外にいる人物に声をかける。副長、と単語を聞いて銀時の胸がドクリと脈打つ。土方は少しだけ顔を覗かせて銀時の姿を視界に捉えるが、すぐにすっと視線を逸らして「よぉ」と一言。そしてまた姿を隠してしまう。銀時はそんな土方に対して、まだ意識しているのかと溜息をつく。ただでさえ土方の周りには厄介なヤツがいるというのに、これだけ時間が経ってもまだこの態度とはどうかしている。
「ちょっと物騒な顔してそこに立たないでくれる? お前の顔にびびってお客さんが来ないだろうが」
銀時がそう声をかけると、土方はふいと顔を背けて煙草の煙を吐き出した。なんだこれ、無視か。
「旦那、副長と何かあったんですか? 万事屋に少し寄ってもいいかって聞いただけで切腹だとか言われるんですけど、また揉め事でも―――」
そう山崎が言い終わるより前に、、チャキリと山崎の首に刃が添えられる。
「余計な事言ってんじゃねえよ。用は済んだか。さっさと帰るぞ」
「ひいぃぃぃなんでですか!? すみませんすみません帰ります!」
土方は窮地に立たされた際とても冷静に状況を分析して最善の判断を下せる男だ。普段の土方ならばもう少し怒鳴り散らしてもおかしくないと思うし、なにより土方が銀時に対して喧嘩を吹っ掛けずにこうして銀時の存在をまるで気にしていないと振る舞うのが少し腹立たしい。いや、腹立たしいってなんだよと銀時は自分に突っ込みを入れながらも、体は動いていた。
「ちょっと」
お邪魔しましたと土方の後ろを歩く山崎の横を通り過ぎ、土方に追い付くと同時に腕を掴む。
「副長さん、借りるから」
「え、旦那!?」
山崎は土方が銀時に連れられて行くのを見て、見送りにと出てきていた新八に視線をやる。
「え、なに、ほんとに何かやらかした?」
「いや、こっちが聞きたいですけど」
とりあえず、2人が戻ってくるまでお茶でもどうですか、と新八は山崎を誘った。