墓穴をほる



適当な路地裏に何の抵抗もなく引っ張られてきた土方を押し込み、銀時は口を開いた。
「なあ、そうまでして避けられると逆に怪しまれるんですけど。何考えてんの?」
土方は俯いたままそうかよ、と呟く。まるで何も分かっていないような土方の態度に、銀時が畳みかける。
「あの日のことはもうお互い忘れたってことでいいじゃねえか。俺はぶっちゃけもう忘れてたぜ。今まで通りお前と話せる自信がある。だからお前もなるべく普通にしろ。特にお前のとこ勘の良いヤツが揃ってるんだから」
「……分かったから、もう、いいか」
土方は何を言われても姿勢を変えなかった。そして俯いたまま銀時の横を通り過ぎ、万事屋へと戻ろうと足を進める。しかしそれは銀時が許さない。力任せに土方の腕を引っ張ると、土方を壁際に追いやった。
「お前態度を改める気ないだろ!! なんですか!? 何が不満ですか!?」
土方の胸倉を掴んでそう責め立てると、先程背中を打ち付けた衝撃で顔をあげた土方と視線が絡む。土方は銀時の顔を見て、今まで抑えていた怒りがふつふつと煮えたぎっていくのを感じた。お前のせいでこっちは取り返しのつかないことになっているのに忘れようだ今まで通りにしろだうるさいのだ。土方は銀時に対して自分の沸点が低いことを自覚している。怒りに任せて何を口走ってしまうのか分からないから極力銀時と出会わないようにしていた。銀時を避けていた理由は何より気まずかったというのもあるが、自分の苦労を何も知らずにこうも責められては折角抑えようとしていた怒りも湧いて出てくるというものだ。
「……山崎のせいで」
「あ?」
土方はチッと舌打ちをしてから銀時を睨むと、そのまま拳を握って銀時の頬にふるった。
「っぶ!?」
土方の不意の攻撃をもろにくらった銀時がその場に倒れこむ。土方は銀時を見下ろした。
「テメェのせいでこっちは取り返し付かないことになってんだよ!! こっちの事情も知らねェで忘れろだ今まで通りだぬかしてんじゃねェ!! この能無しクソ天パ!!」
倒れこんだ銀時の鳩尾に蹴りを入れようとした土方の足が掴まれる。そのままぐっと引っ張られて、バランスを崩した土方もその場に倒れこんだ。うまく体勢を立て直せない土方を仰向けに転がし、銀時はその上に馬乗りになる。
「喋ったと思ったらこれかよ!! テメェの事情なんざ知るか!! こっちだってこっちの事情があるんだよ!! そういうもんひっくるめてお互い様だろ!? いつまでも引きずってんじゃねーよ!!」
もう2人とも止まれなかった。
「うるせぇぇぇぇ!! テメェの事情なんざ知ったこっちゃねーよ!! 明らかにこっちの事情の方が深刻だつつーの!! 人のケツに突っ込んで好き勝手してくれたヤツはやっぱ言うことが違うな!! んっとにクズだな!!」
「あーーー!!!!! そんなデケェ声で言うんじゃねェよバカか!? お前はバカなのか!?」
「バカはテメェだろクソバカ天パ! 冗談はそのクルクルパーな頭だけにしとけ! つか死ね! 俺の前に二度とそのバカ面見せんな!」
「バカバカうるせぇよ! 全体的に今悪いのはお前だろ!? お前が怪しまれるようなことすっから悪いんだろうがよ!!」
「はあ!? なんで俺が悪いことになってんだよ!! テメェが好き勝手してくれたおかげでこっちはケツに指突っ込まなきゃイけ、な……」
2人は土埃にまみれながら暗い路地裏で殴る蹴るの応酬をしていたが、そこで土方の動きが止まった。つられて銀時も繰り出そうとしていた拳を止め、そして土方の言葉を脳内で繰り返す。
「……土方く、」
成程、確かにそちらの事情のが深刻であった。銀時は何故土方にあんなにも怒られクズだと言われたのか理解して声をかけようとしたところで、再び土方の拳が銀時に襲い掛かる。
「う、お!?」
今度はそれを避けるが、土方の目的は銀時に拳をお見舞いすることではなかったらしい。勿論当たればラッキーと思ってはいたであろうが。土方は銀時が怯んだ隙にその場から逃げようと体勢を整えた。銀時はそんな土方を見て、なんだか今逃げられたらこの先会える機会がなくなるような気がして、逃げ始めた土方の背を追いかける。
「土方!」
逃げ足は恐らく皆速い。しかし、男は逃げられたら追いかけたくなる生き物なのだ。銀さんは追いかけて追いかけて追い詰めることが大好きな生き物なのだ。本気を見せてやる。
「っの、待ちやがれ!」
掴んだ。今まさに表通りに出ようとしていた土方の後ろ襟を掴み、そのまま一気に力任せに引っ張る。再び暗い路地裏へと連れ戻された土方の表情はあまり見えないが、ここで誤魔化しても仕方がないと思ったのだろうか。意を決したように口を開いた。
「……さっき聞いた通りだ。だが、責任を取れとは言わねェよ。だからこのことは他言無用で頼む」
成程、そう来るか。
「他言無用って、ねえ……」
素直に首を縦に振らない銀時に、土方はチッと舌打ちをする。
「金か? 散々好き勝手ヤった上に口止め料まで取ろうってか? さすがクズの考えることは違うな」
土方の発する言葉から、オーラから、もう全身からクズ野郎と思われているのが伝わってくる。これにはさすがの銀時も腹を立て始めていた。なんたって、覚えていないものは覚えていないのだ。
「クズクズうるせえよ。覚えてねェもんはしょうがねーだろ」
「だからせめて誰にも言うなっつってんだろ」
クズだクズだと言われ続けて腹が立っていた。だったら自分はどうしろというのか。銀時は考えた。確かに土方の体のことを思えばあれだけ言われても仕方ないと思わないこともない。だが、覚えていないのは向こうも同じだ。自分だけが悪いわけではない。
「お前はそれでいいのかよ」
「あ?」
「俺がなんにも人に言わなきゃそれでいいの?」
「……テメェみたいなヤツに責任取れる安い男じゃねェんでな」
じゃあそういうことで、今度は逃げるようにではなく、ゆっくりと土方が歩き出す。その瞬間、銀時の腹は決まった。銀時は待てよ、とその肩を掴んだ。
「まだなんか」
あんのかよ、と土方が言う前に、銀時の唇がその言葉ごと土方の唇を覆った。すぐに銀時の舌がぬるりと入ってきて、土方は思わずそれに歯を立てる。血の味が広がったが、それでも銀時は離れようとしない。
「っ、ん、」
土方をそのまま壁際まで追い詰め、逃げられないように土方の足の間に自分の足を割り入れてから唇を離す。
「な……っにすんだ!!」
銀時は土方の唇を手の平で覆い、笑った。
「責任、取ってやるよ。今ここで。お前を抱いて」
「!?」
土方の瞳が見開かれる。
「今度はきっちり覚えてやる。土方、お前が乱れてるとこ全部。お前のケツの穴、俺のチンコじゃないとイけない体にしてやる。そしたらいいだろ? お前は俺に頼るしかない。俺がずっとお前の面倒見てやるよ」
んん、とくぐもった声が聞こえるが、お構いなしに隊服のスカーフをしゅるりと解く。体を密着させているため、土方の手足は抵抗を試みてはいるものの大した力ではない。
「お前の言うクズ野郎が責任取れる方法なんてこれしかないもんなァ。俺のチンコごと俺をお前にやるから、お前もケツの穴ごと俺のもんになれ、土方」
露わになった首筋に吸い付いて痕を残す。銀時は、冷静な判断が下せない程度にはイラついていた。