愛しきアルファ
「愛しさ」を知った。
嘗て「神」と呼ばれた俺は、一人の少女に出会った。彼女は俺が創造した世界の人間であったが、俺が発端で起きてしまった悲劇、その被害者だ。自分と親しい者が次々と殺され孤独な人生に絶望していた少女。
『神なんていない!!』
初めて会った時彼女はそう俺に言い放った。神がいたなら誰も失う事はなかったのだと。だが実際は、少女に一目惚れをした神の見習いが彼女に親しい者達を無差別に殺して行ったのだ。それを聞いた彼女は叫んだ。
『皆を返せ!!!』
尤もだと、思った。そんな身勝手な理由で愛する者を殺されたのだから。俺は彼女の腕を引っ張り自らの腕の中に閉じ込める。しばらくして大人しくなった少女に事の発端から全てを話し土下座をすれば、彼女は涙を流しながら言った。
『どれだけ貴方を罵っても、謝られても、私の大切な人達はもう戻って来ない』
覆水盆に返らず。
器から零れ落ちてしまった水が元に戻らないように、一度失ってしまったものは、手を下されてしまった命は、もう戻る事はない。戻れない。だから少女の愛した存在は、二度と……。
『貴方が殺したんじゃないのに』
少女は謝った。貴方が手を出した訳じゃない、だから貴方を責め立てるのは間違っている、と。たとえ元凶だろうと殺したのは別の者。それに故意ではないのだ。
しゃくりあげながらそんな事を言う少女に、俺は胸の奥から何かが込み上げて来るのを感じた。泣き顔を見せまいと手で覆う彼女の細い身体を引き寄せ、その背に手を回す。……泣かないで、欲しい。
───嗚呼、これが「愛しい」か。
この儚い存在を護りたい。
心の底からそう思った。
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アルファ…物事の始まり
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