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『サーヴァント・
復讐者。お喚びくださりありがとうございます』
『は、?』
なんとなく。ただなんとなく。
言われたから。勧められたから。
そういう気分になった。それだけだった、なのに。
『冬璃……?』
『……冬玖?』
どうして、お前が。
***
天川冬玖は魔術師の家の出身だ。その実家に嫌気がさして出奔し、たまたま偶然街中で出会った男にスカウトを受けた。曰く、レイなんとかの適性がどうのと。よくわからぬまま行く宛もなかったので──決して考えなしなのではなく、単なる投げ遣りである──身一つで、否、ほんの少しの持ち物と共に何処ぞの国のとある標高云千mの雪山その地下工房へ高飛び(?)した。由緒正しき魔術師の家系の御曹司やらご令嬢やらが集まる秘密結社とは言い得て妙な施設「カルデア」にて、魔術師ならば知らぬ者はいないアニムスフィアの名を持つ所長の駒となり、人の歴史……人理を守るべく奔走する事となった、のだが。
少年・天川冬玖は魔術という神秘を、魔術師という存在を、それはそれは嫌っていた。
己もその類の家の生まれであるが為に、その汚さを、狡猾さを、嫌というほど身に染みていたのだ。根源に至る事がそんなにも重要か。その為ならば人の命も容易く切り捨てるのか。魔術師というのはそんな奴らばかりなのか。腸が煮え繰り返る思いを募らせた結果が先の出奔なのだが。標高云千mの雪山の地下でも魔術に関わるハメになるとは……行く宛がないからといってついてきたのは間違いだったのでは?人理とやらもご愁傷様だ。何があって焼却という危機に曝されているのかはわからないが、魔術師なんぞの手を借りねばならないなんて。魔術師(と書いて「クズ」と読む)に守られるくらいなら、自分がその立場なら自害していただろう。まったく世も末……否、実際本当に「末」を迎えようとしているか。魔術師に救われる世ならば滅んだ方がマシである。このまま滅んでしまえ。
……とまあ、彼の魔術師嫌いはざっとこんな感じであった。
そんな彼が人理を守る魔術師、所謂「マスター」として真面目に訓練を受けるはずもなく。与えられた課題や受けるべき講義をサボったり、珍しくレポートに取り組んでいると思いきや中身は高名な魔術師の批判論文だったりとすっかり問題児になっていた。カルデアの所長であるオルガマリー・アニムスフィアからは「あんな素行不良カルデアにいらない!!追い出して!!」と喚かれる散々な嫌われようだ。当然である。ただ、器用貧乏なのでやらせてしまえばそこそこの成績を残す為、医療部門トップのDr.ロマニ・アーキマン──通称・Dr.ロマン──はそういう訳だからと彼を庇っていた模様。冬玖がカルデアから本当に放り出されなかったのはロマニのおかげだった。
だが流石の問題児もカルデアが爆破され、カルデアスが真っ赤に燃え、オルガマリー所長が殺害され……謀らずして人類最後のマスターとなってしまった今、一気に焼却が進行した人理を修復すべく奔走するしかなくなった。Jesus!──おっとこれはキリスト教徒に嫌がられる。Oh no!──こんな展開は誰も望んじゃいないというのに!
期せずしてレイシフトしてしまった特異点Fから始まり、邪龍蔓延るオルレアン、皇帝争いのセプテムと、爆破事件以降3つの特異点を修復してきた。時代を超える事に幾分か慣れて来たこの頃、戦力の補填として新たにサーヴァントを召喚する事となり。ロマニから教えられた英霊召喚の詠唱を行ったところ……
『素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
閉じよ。
閉じよ。
閉じよ。
閉じよ。
閉じよ。
繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する。
─────告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ───!』
『サーヴァント・
復讐者。お喚びくださりありがとうございます』
『は、?』
冒頭である。
召喚陣が勢いよく回転し、現れた銅のアヴェンジャー。白く長い髪、左目に包帯、質の良い着物……虚ろな瞳の幼い子供。『冬璃……?』思わず冬玖が漏らしてしまった声に反応して幼女も顔を上げる。『……冬玖?』大きな瞳を見開き、彼の名前を呟いた。小動物を連想させる仕草で首を傾げる。辺りを見回して今自分が見覚えのない場所にいる事を知った彼女は不安そうに眉を下げた。その姿にハッと我に返った冬玖はすぐさま駆け寄り、幼女を抱き上げる。そしてそのままぎゅうぎゅうと効果音がつくほど抱き締めた。冬玖の召喚を周りで見守っていた後輩のマシュにロマニ、カルデア職員、サーヴァント達は目の前の光景に開いた口が塞がらない。何してんだコイツ!!
「せ、先輩!?」
「ちょちょちょ!!何してんだマスター!!」
「あ、あの冬玖くんが……冬玖くんが!!幼女をぎゅっと……!!」
『冬玖』
『……………』
『……冬玖』
『…………もう少し、このまま』
『んむ……』
どうしよう。そんな視線を外野に向けるが、そちらはそちらで阿鼻叫喚なのでまるで意味がない。「冬璃」と呼ばれた幼女は自分の首筋に顔を埋めている少年の背中をぽんぽんと叩いた。だが益々擦り寄って来てしまいどうしたものかと唸る。しばらくそのままでいると、冬玖はようやく顔を上げた。ほっと息をついたのも束の間、
『ドクター』
「へあっ!?」
『しばらくこいつ借りる』
あわあわとしている周りを置いてけぼりに、風のようにその場を去った。冬璃を抱き上げたまま。
「ちょっとーーーーーー!?!?」
***
連れていった先はマイルームです。
そして始まる鯖冬璃ライフ(なんのこっちゃ)。
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