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緑の葉が、赤く染まり始めた今日この頃。
阿笠博士の家に響く期待に胸膨らませる声が玄関の扉を開ける前から聞こえてくる。

「コナンくん、やっと来たぁ」
「全く!これを逃したら90年後になるんですよ!!!」
「オレ達もうおじいちゃんだぞ!
「わーてる!悪かったって!」

こいつら、少年探偵団が心躍らせているのは他でもない。次の満月と共に、太陽が重なる皆既月食という現象が日本国内でもっとも観測されると言われている。まぁ俺も見るのは始めてだから、浮かれたくなる気持ちはよくわかる。あの、灰原でさぇも、一眼レフなんか買って撮影しょうとしてるぐらいだからなぁ。

テレビも新聞も最近はこの話題で持ちきり。
数十年に一度、見れるか見れないかの自然現象だから騒ぎ立てるのだろうけど、もう一つ、日本国内では騒ぎ立てるモノがあった。

『今月の満月の時に、あのプパルーケ王国の王位継承の儀を国内で行われるにあたって日本の警察も警備を厳重な元で一般観覧には何万倍の倍率が予想されております』

テレビのニュースキャスターがにこやかに読み上げたそれがまさに、騒ぎ立てる要因だ。なぜ、わざわざ日本に来て王位継承の儀を行わなきゃいけねぇんだ?自国で行えればいいはず…でも、それにも、理由があり、全国民がもう聞き覚えてしまっている。

「あ、また、やってるー!チサ皇女様だっかわいい!」

とテレビの周りに集まってきた少年探偵団。

「でもよ、このおねぇちゃん王女様ってよりお姫様のがあってねぇか?」
「それは、そうですよ。チサ皇女様は、本来王位継承2番目だったはずのお方ですから…」
「お兄さんが亡くなったから、チサ皇女様が国で一番になるんでしょ?」

光彦が悲しげに告げた後に、平然と灰原は答えた

「ええ、そうよ。本来なら彼女のお兄様がなるはずだった、王位継承権が彼女の元へ降ってきたのよ。そして、彼女は王国で…嫌、世界中どこ探してもなかなか見つからない…宝石を持っているそうよ」
「そして、その宝石は、皆既月食時に現れ、それ宝石を手にした瞬間彼女が王女となる」


まるで御伽噺のようなシナリオだけど、コレが本当に見れるのならと話題好きの人々が観覧席を求めている。「あーーっ!またじゃ!」…そして、ここにも、一人。その観覧席を求めている人がいた。

「もう!博士また、ダメだったの?」
「…ぁーこれで、15回目」
「それ、本当に当たるんですか?」
「…わからん」

こんな非科学的な御伽噺になんで、博士がノリノリなんだろうな。科学者ならもうちょっと科学者らしい発言してほしいけどなぁ…と、崩れ落ちている博士を視線を向けている時、テレビから速報ニュースの音が流れ、画面上に流れる白い文字に視線を向けた。そして、その速報をニュースキャスターが読み上げた。

『スポーツのお時間でしたが、ただいま速報が入りました。『新たなる王の誕生する満月の日、最高峰宝石を頂きに参ります。怪盗キッド』と鈴木次郎吉様の元へ予告状が届いたようです』

「なっ!!!」
「まぁ動くとは、思っていたけど、馬鹿なのかしら?あのキザな大泥棒さん」

本当だよ!あいつ、何考えてんだ?日本国ではもちろん、世界的に注目を浴び得ている王位継承の儀だぞ?!そんな場所で盗むって…あいつ、正気か?!


その数分後オレの元に、一本の電話が入った。

「キッドキラー、お主もこい!ん?なんだ、あのちびっ子達も見たいじゃと?あーよかろ!全員一緒に来るが良い!我が鈴木財閥が用意した継承の儀特性会場の特別席を用意してやろう」

オレは、行くなんて言ってねぇのにアイツらが盛り上がって勝手に電話切りやがって…。

でもまぁ、そろそろ決着つけねぇとな、怪盗キッド。


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「坊っちゃま、準備は整いました」
「サンキュー、爺や」

さーてと、名探偵、おれからの挑戦を受けてもらうか?これはおれ一人では盗む事は出来ねぇんだ。お前の力を貸してくれ。

「坊っちゃま、大丈夫ですか?」
「あぁ大丈夫だよ。数十年に一度の皆既月食で、これ日本が丁度満月。そして、世界中が注目する王位継承の儀。月下奇術師にとってこれほど最高なステージはねぇよ。皇女様に感謝しねぇとな」
「くれぐれもお気をつけてくださいね。こちらも最大限のサポートを務めさせて頂く所存であります」
「期待してるぜ」

王位継承の儀に乗り込む準備は抜かりなく、サポートも万全で楽しみに待ち望んでいるんだ…ただ一つを除いて。

「…坊っちゃん…、やはり、浮かない顔をさせておりますが、何か心配事でもございましたか?この爺に、お聞かせください」
「ごめん、爺や。これは、今回のステージに大事なシナリオだと言うのはわかってんだ…わかってんだよ…でも、やっぱり、行きたくねぇぇぇ」

テーブルに自分の顔を押し付けた。
そんな俺をカウンター越しに見て爺は安心したのか笑った。

「それは、一番大事な仕掛けですよ!慎重に行ってきて下さいね?お帰りをここで待ちしております」

さっきまで俺を心配してくれてた心優しい爺やはどこへ消えてしまったのだろうか。ホッホほっと陽気な笑い声まであげて楽しそう。

あーぁ、本当、明日の15時が魔法で消えてくれねぇかななんて思いながら、上弦の月の夜は更けて行った。


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翌朝
なぜか、機嫌の良い蘭。まぁ大方予想はつく。俺が呼ばれたように、園子に呼ばれて蘭も王位継承の儀を間近で見られるからだろう。足を弾ませながら作ってくれた朝食に箸を伸ばした。

「コナンくん、今日15時ごろには帰ってくれそう?」
「うん!帰ってこれるけど、何かあるの?」
「ふふふっ、それはその時までのお楽しみ!」
「えー、教えてよ!蘭ねぇちゃん!」
「だめだめ!あと、帰りに哀ちゃんも連れてきてもらうかな?」

灰原!?と声をあげた。王位継承の儀はまだ先だっていうのに何があるんだ?それに灰原まで声かけてますます分かんねぇ。朝から下校時間まで考えたけど、一向に理解できないまま嫌がる灰原を連れて、毛利探偵事務所へ帰った。

「ただいま、蘭ねぇちゃん」
「おかえり、コナンくん、哀ちゃん」
「おかえりーガキンチョふたり」

探偵事務所のテーブルの上には、お茶菓子とお茶が五つ準備させていた。蘭と園子が用意したんだろう。でも、なぜ、五つ?おっちゃんの分…?

それならもういつもの椅子に座ってるはずだけど…「蘭ねぇちゃん、他に誰かくるの?」と聞くと園子が目を丸くして蘭と話し始めた。

「ちょっと、奥さん。旦那の帰りを伝えてないってどうゆうことなの」
「だ、旦那って!やめてよ、園子!!それに、新一に頼まれたんだもん。コナンくんと哀ちゃんには俺が来る事は内緒にしてくれって」

新一?!
待て待て、これってまさか…と灰原に目を向けると深いため息を吐いて、ソファに腰掛けてテーブルに置いてあるお茶に手を伸ばした。

「まぁー新婚さんはお約束をしっかり守ってらっしゃるのねぇ〜」
「もお、園子!!!」

蘭と園子の会話が遠くから聞こえてくるほどにオレは今からやってくる工藤新一と名乗る怪盗キッドの事で頭が埋め尽くされた。
9654;︎#NEA land君に奪われた瞳