06

会場から赤い月夜に向けて風任せに揺れて、向かった場所は今まさかに名探偵が全ての問題も解決へ導くショーの真っ最中である、あの応接室のテラス。あの応接室には、伯爵が仕込んであろうサプリの試供品や改良品などが置かれており、前日には姫様が一人で集めた伯爵の悪行が事細かく書かれた資料も隠されている。それと、計画を組み上げた皇帝様もお見えになっている頃だろう。そこへ今日の主役を送り届けたら終わり…そう、ここからが俺の本番だ。

「姫様との空のひと時も悲しいですが、そろそろおわ「嫌だ!」…は?」

「もう少し寄り道してもいいんじゃない?」と俺の首に回していた腕にぎゅっと力を入れるからバランスを崩して、応接間のテラスに飛び降りれないまま中庭へと辿り着いた。「見てみてー!ここにも赤い月があるよ」と中庭にある噴水に映る月へ大喜びの姫に対して、俺は大焦りだよ。皇帝様の計画では、あの応接間のテラスに姫を届けて、姫が一人で守ってきた帝国の情勢について話さないと反逆者を一斉に排除できない。ならば、今から、執事の格好に着替えて、あの場へ安全を配慮しながら届ければまだ間に合う。

「姫!今から会場正面から応接間へ向かいましょう!」と俺は催促すると姫は、噴水の淵にゆっくりと腰掛けてとても嬉しそうに言った。

「嫌だ」

おい。

「……嫌じゃねんぇよ!!いくぞ!」
「いいの!私のために用意してくれた会場だよ?なら、この赤い月の間に楽しみたい」
「まだ、皆既月食は続く!事件解決してから楽しめばいいだろう」

全く、世話が焼ける姫様だな!!と噴水の縁に腰掛けている姫へ近づく。

姫様は、突然家族を失った時も、その責任が姫様のせいにされかけた時も、悪事をもみ消しにしたと信頼を得たはずの相手が本当の反逆者だと知った時も、きっと今噴水の水に映るように、一人声を堪えて、水音に消されてもらいながら泣いていたんだろう。俺は多分、女性の涙には弱い「…少しだけだからな」っと隣に座った。俺の白いマントをぎゅっと掴み「…ありがと」と震える声が聞こえた気がした。でも、それは噴水の水音で消えていった。


十六の少女には、きっと苦痛の日々だったんだろうな…そんな簡単な言葉でしか言い表せれない自分が情けない。隣に座り、月を見上げた。地上から見る月も赤く綺麗で「綺麗な、月だぞ。みてみろよ」と下向く彼女へ言った。目を擦りながらゆっくり顔を上げて、月を見上げた。

「すげぇよな、月と太陽が重なるだけで色が変わるって」
「…うん…綺麗だね」

チサ姫の蒼く美しい瞳が月明かりで赤く染まりまるで、ビックジュエルそのものだった。
驚いて、月を見上げるチサ姫の瞳に心奪われた。これが、宝石眼。ダイヤモンドのように綺麗に輝く涙さえも零れ落ちないでほしいと思いソッと手で彼女の頬を撫でると綺麗な瞳が大きくなり、嬉しそうに微笑んだ。

「ねぇ、怪盗KID。お願いがあるの…聞いてくれる?」
「俺が皇帝に殺されてなければなんでも叶えてあげます」
「それなら大丈夫だよ、全部名探偵が解決できるように置いてきたもん」
「さすが、皇女様」

えへへっと照れ隠しの笑みを浮かべた。この世の中で見てきたいくつもの宝石とは比べものにならない程綺麗な横顔に惹きつけられた。

「私、もっと帝国のために強くなりたい。もう誰に騙されてもくよくよしないで、立ち向かえるように…それこそ、怪盗に攫われるような姫じゃダメだと思うんだ。十六歳を迎えたら帝国では、婚約とかしないといけないけど、私はそれもしないで今より強くなる」
「いいんじゃない?必ず決められた道を進む必要はない。ただ、姫は今でも十分にお強いお心をお持ちですよ?」
「ありがとう。でも、今の私には、貴方みたいに欲しいと願った物を自分で奪える強さはないもん」
「欲しいものですか?」

国を支えてきて反逆者からも守りきって、家族も戻ってきた。
きっと、もう、今までみたいな苦痛はないはずだ。婚姻も望んでいないのに、今よりも強くならないと手に入れないものなんてあるのだうか?彼女の目元はもう、赤く染まっていなくて、瞳の青さが一段と輝きをみせた時、軽やかなステップを踏んで噴水の縁へ立ち上がった。「危っ!」と手を伸ばすと華麗に交わして、コツンっと音と立てて縁から飛び降りた。

「私も、守ってくれてありがとう黒羽快斗」

勢いよく振り返ったのでドレスとチサ姫の髪の毛がふわりと風に靡いた。それは、まるで御伽話の中から飛び出してきたお姫様のように可愛らしい姿に見惚れてしまったが「…おい!!!」と一気に現実へ戻される言葉でもあった。

「…な!「なんで名前を知ってるかって?…貴方、私の事、舐めてる?私は姫だけど、お茶会ばっかりで身繕ってるだけの姫じゃないのよ?」…ヨク、存じてオリマス…」

おいおい…これは俺が不味くねぇか?
このまま姫が俺のことを誰かに話したら…っと一気に状況が悪くなってきた俺はこの場から逃げるしかねぇのかっと無線で爺に「撤回に準備をしてくれ」と頼もうと手に取った小さな手で無線機覆って「誰も言わないよ?私の国を守ってくれてありがとう。私を奪ってくれて、ありがとう。」と言った声と手は震えていた。

「……姫の願いをお伺いしてもいいですか?」と震える手に手を重ねた。


――――――――


「「「チサ!!!!」」」

無事に伯爵の悪事を暴ききった後、チサ皇女様は応接間へ現れた。それも、自分の足で。それに驚いた日本に逃げ隠れしていた帝国皇妃王太子は数年ぶりの再会に熱い包容を交わしていた。

「キッドも流石に姫様を奪えなかったんだね」
「そりゃ、奪えねぇだろう…多分…」
「何よ?歯切れ悪いわよ」
「…いや、だってキッドだぜ?何も奪ってないなんて…居心地悪くねぇか?」

王位継承の儀から皇帝帰還パーティに代わった会場内で笑う皇帝皇妃を見ながら、心地悪さに納得がいかない。
「いいように使われたのよ」と嘲笑う灰原にぐうの音も出なかった。

そういえば、王太子の姿をまだ見てないけど、何処へ行ったんだろう?探し回りパーティ会場をでる。パーティ会場を抜けると外は静かで「……しろよ!!」と王太子の叫ぶ声が響いていた。足早に声の元へいくとテラスの柵に座り込んだ白いを身に纏った「キッド!!!」と声を上げた!

「やぁ、名探偵。今回は助かったぜ」
「オメェ、今回何も盗んでねぇだろう?いいのかよ」
「…盗んだよ!!この大泥棒は!帝国から!…チサを…!!」
「もちろんお約束通り、宝石は頂きました。そして、家族の元へお返し致しました」

キッドは皇帝の計画にあった通り宝石眼を伯爵から奪ったし、今チサ姫はパーティ会場にいるから王太子が言っている奪ったの意味がよくわかなかった。

「こいつ…帰ってくる計画だったから、身の完全の上で奪っていいとは言った。言ったけど…っ!!」
「どうゆうことだよ、キッド!お前何を奪ったんだ?」
「んーーそれは話すと長くなるんだですが…チサ姫はもうしばらくは帝国にはお戻りなりません」
「は?」
「ちなみに、皇帝と皇妃様からの許可は得ています」
「なんで「では、では、俺のお役目はここまで、またお会いできることを楽しみにしております」…おい!!」

月の中へと消えていったキッドの後ろ姿に麻酔銃の狙いを定めると綺麗な宝石が突然現れた。

「うわぁ!チサ姫様なんでここに?!」
「これなあに?」

「こ、こ、これは……」と麻酔銃を背中に隠して、チサ姫様に答えを求めた!キッドに奪われたもの何?宝石の瞳もここにある。「キッドに何を奪われたの?」と問いかけた。


「知りたい?」
「知りたい!」
「笑わない?」
「笑わない」
「呆れない?」
「呆れない」
「なら、教えてあげる」

そう言って、彼女は今立ち去ったキッドが居たテラスの柵に手を掛けて微笑んで言った。
それは、それは、とても大事なもので対価さえもつけることもできない。キザな大泥棒ならでのものであった。


9654;︎#NEA land君に奪われた瞳