辺りを見まわしつつ、歩みを進めるも探している人物が見つからずアーサーは考える。探しているのは契約を結んでいるマスターの穹で、部屋や良く顔を出している食堂にも居なかった。常に開いているパスを通して言葉をかけるも返答はない。緊急召集はかかっていなかったはずだし、ひとまずカルデア内に居ることは間違いない為、探し続ける。角を曲がった時、カルデアに居るもう一人のマスター――藤丸立香とぱたりと会った。

「やあ、立香」
「こんにちは、アーサー。あのさ、マシュを見なかった?」
「マシュ嬢かい?」

穹を探していた道中のことを思い出してみるが、立香の探しているマシュの姿を見かけた記憶はない。見ていないことを伝えると、そっか、と立香は肩を落とした。そんな立香に穹のことも尋ねるが、あちこちと探していたが見かけてはいないと言う。二人はいったい何処へ行ったのか――とアーサーと立香は互いに首をかしげる。

「立香、良ければ一緒に探さないかい?」
「もちろん。一緒に探した方が早いかもしれないし」

そういうことで――二人は共に穹とマシュを探すこととなった。
探していない場所はどこかと考え、レクリエーションルームは? と立香。まだそこは探していないと伝えると、じゃあさっそく行こう、ということになった。レクリエーションルームの一角にあるカラオケルームへ歩を進めると、ちょうど部屋に入ろうとしていたエリザベート・バートリーに出会った。おーい、と立香が声をかけ、穹とマシュを見かけなかったかと尋ねる。顎に人差し指をちょんと置き、そういえば……、とエリザベートは言った。

「結構前に管制室の前を通ったときにすれ違ったわ。二人で一緒に歩いていたけど……」

どこへ行くかまでは見ていないとエリザベート。管制室は一応探したが、すれ違ってしまったのだろうかとアーサーは考える。立香も同じだったようで、一旦戻ってみようかということになった。礼を言い踵を返そうとした時、ねえ、とエリザベートに呼び止められる。

「子ジカ、それに異世界の騎士王。これからアタシの新曲を聞、」
「ごめんエリザ! 俺達急いでるんだ。それじゃあ練習がんばって! アーサー、行こう!!」
「え。あ、ああ。失礼するよ」
「ちょ――なんなのよ、もうっ!!」

立香にぐいと腕を引っ張られ逃げるようにしてその場を離れると、今度ライブするから絶対聞きに来なさいよねーッ!! と透き通る声でエリザベートは叫んだ。良かったのだろうかと心の中で思っていると、命拾いした……、と立香は安堵の息を吐く。そういえば以前に、エリザベートの歌はある意味すごいよ、と穹から聞いたことがある。その時の表情はすべてが無に帰したような感情も何も感じないものだった。あの時の穹の顔と、今の立香を見て、それほどエリザベートの歌はすごいものなのかとアーサーは密かに興味を抱いたのだが、口には出さなかった。
次にやって来たのはエリザベートから目撃情報を得た管制室前。偶然にも管制室からジャンヌ・ダルクとジャンヌ・ダルク・オルタの二人が出てきた。一方的にジャンヌオルタが言いがかりをつけているが、ジャンヌは慣れているのかスルーしつつ笑う。そんな二人に、おーい、と立香は声をかけた。

「ジャンヌ、オルタ、ちょっと良い?」
「嫌よ」
「ええ、良いですよ」

ジャンヌオルタの言葉を遮るようにジャンヌは立香とアーサーに微笑み頷く。早速、穹とマシュを見かけなかったかと尋ねると、見ましたよ、とジャンヌ。

「この聖女様は素直に答えるみたいだけど、対価もなしに教えるわけがないでしょう? だから頑張って探すことね」
「もうっ、オルタ!」
「うるさいわね、黙ってなさいよ」
「いいえ、黙りません。二人なら休憩所に居ましたよ」

ちっ、とジャンヌオルタは舌打ちしたがすぐに鼻を鳴らす。

「そういえば、二人して何か企んでいたわ。せいぜい気をつけなさい?」
「二人して……」
「何かを企んでいた……?」

立香とアーサーが呟くように復唱すると、ええそうよ、とジャンヌオルタは愉快そうに言う。しかしすぐに、もうっ! とジャンヌが割って入った。

「二人は……、」

と、言いかけてハッとなり口をつぐんだ。ふるふると軽く頭を左右に振ると、これについては、とジャンヌは穏やかな色で続ける。

「すみません、私も口を閉ざしますが……早く会えると良いですね」

二人のジャンヌは、ジャンヌオルタの一方的な言いがかりで再び小競り合いを始めつつも、立香とアーサーと別れた。二人を見送った後、立香とアーサーは顔を見合わせる。穹とマシュが何かを企む――というのは想像できないが、せっかく有益な情報が手に入ったのだ。ジャンヌが教えてくれた通り、休憩所へ向かうとしよう。どういうことだろう? と首をかしげるも、二人は休憩所へと歩を進めた。
そうして――休憩所へ着くなり軽く息を吐くなり立香とアーサーは程なくして目を細めた。今日はあまり吹雪いておらず、日の光がぽかぽかと窓から差し込んでいる。その窓のすぐ近くにある長椅子に腰掛け、寄り添うようにして眠っている穹とマシュの姿があった。二人の手には編み物で使う道具と、膝の上には編みかけの何か――長さと形からしてマフラーだ。穹は青色を、マシュは白色のマフラー。
ふと、アーサーはつい先日のことを思い出す。穹に何色が好きかを問われ、強いて言えば青色だと答えた。立香もマシュに同じことを以前に聞かれており、白色かなと答えていた。
ジャンヌオルタの言っていた、何かを企んでいた――とはなるほどこのことかと理解した。編み掛けのそれは、完成するまでにもう少し時間がかかりそうだ。

「なんか、起こすの悪い気がするけど……」
「ああ、風邪を引かれては困るからね」

だね、と立香は同意すると、ここまでお疲れ様、とアーサーを労いマシュの傍へと歩み寄る。立香こそとアーサーも声をかけると穹のもとへ。二人は同時に、お互いの探していた人物の名前を呼んだ――。


神様だけに教えてあげる
(2人の企みには気づかないふりをして)

マシュ「ど、ど、どうしましょうっ。先輩に見られてしまいました……!」
穹「お、おお、落ち着いてマシュっ。だ、大丈夫。二人とも何も言ってなかった。きっと気づいてないよ、大丈夫ッ。そ、それに、二人って……然だ!」
マシュ「なるほど……!」
穹「急いでマフラーを仕舞おう。これは僕とマシュが二人で考えて計画した、内緒のプレゼントだからねっ」
マシュ「は、はいっ!」

立香「(……全部聞こえてるんだけどなぁ)」
アーサー「(立香、気づいていない振りをしておこう。しかし、天然と思われていたのか……そうか)」
立香「(俺は天然じゃないはずなんだけど……ていうか、え。アーサー気づいてなかったんだ。アーサーすごい天然だよね)」
アーサー「(えっ)」
立香「(えっ!?)」

愛子||190716(title=喉元にカッター)