うそつきアイオライト
ナマエは大慌てで引き出しを漁る。
彼女には宝物部屋があって、愛しの彼に貰ったものや、彼とお揃いのものが置いてあるのだ。
あまり此処で時間を使うと過ごせる時間が減ってしまう。それと、心配性な彼は何かあったのではと不安になるだろう。
やっとお目当てのものが見つかって、鏡の前へ立つ。
「さあ、愛しきアズールのもとへ!」
「…あら、アズールは?」
「後1時間程で帰ってくるそうですよ」
「1時間も…そうだわ!今日はジェイドにお願いがあったのよ!」
ナマエが小さいバッグからゴソゴソと物を探している。
彼女のバッグの中身は大体化粧品とハンカチしか入っておらず、ジェイドは何のためのバッグだといつも思う。
いつでも財布が出せると言ってはいるが、彼女が財布を持っている姿は片手で足りる程しか見たことがないのだ。
よく通っている食事処やアクセサリーショップ、偶にある人型の洋服屋はいつだって顔パスであるし、そうでない店も彼女が払うのはの字を言う前に、周りの誰かが支払う。
果たして彼女は一人でまともな買い物ができるのだろうか。ジェイドそんなことを考えているとはつゆとも知らないナマエは満面の笑みでそれを差し出した。
「見て!このポリッシュ、アズールの瞳と同じ色なの!」
「…塗れと言う事ですね」
「流石はジェイドね!足は上手く塗れないのよ」
「人魚に戻れば取れてしまいますが、いいんですか?」
「大丈夫よ!今週は人型週間で魔法もバッチリ!」
ジェイドは彼女の魔法の腕は認めているが、本当にロクなことに使わないなと思った。
ナマエは近くの椅子を持ってきて、してもらうことが当然のように動く。ジェイドは笑みを崩さぬまま受け取ったポリッシュを眺める。確かにアズールの色ではあるが、光の角度によって色が変化するようになっているようだ。時たま見える金色が心をくすぐる。
ナマエはアズール以外どうでも良いと言っているが、彼女は無意識にジェイドとフロイドも大切にしている。最もそれを指摘して認めたことは一度だってないが。
これだってそうだ。彼女のファンは多く、同年代の女の子からポリッシュは山ほど持っているだろうに。
「じゃあ右足からにしましょうか」
「はぁい!うふふ、くすぐったいわね」
ムラにならないように注意しながら塗る。ジェイドの性格もあるが、ナマエは以外とこういったことを気にする。
本人曰く、女の子はいつだってそう、メイクもネイルもファッションも、常に最高の自分であるための一つよ、ということらしいが。じゃあ貴方の舞台道具係のあの子(彼女はお世辞にもそれらに興味があるとは言い難い)はどうなんですか、と聞いてみたところ、彼女は最高の自分に必要なことが道具の状態と自分のコンディションっていうだけよ、とのこと。他者を非難しないと言えば良い響きだが、ただ単に他人への興味が薄いだけであることは長い付き合いで知っている。
「とりあえず一周塗り終わったので反対の足を」
「相変わらず貴方は上手よね。これで前あなたが選んでくれたオープントゥのパンプスを履くの!素敵でしょう」
「ああ、あれですね。あの靴ならよく似合うでしょうね」
そう言いながら丁寧に手を動かす。ナマエが好き好んで身につけているのは、実はジェイドが選んだものが多い。アズールは小物…特にブレスレットを送ることが多いのだ。ナマエは勿論アズールに貰ったものを一番に身につけ、それに似合う靴や服を選ぶ。ほとんどの靴はジェイドと一緒に見に行き、ついでにそれにあった服も選ぶ。
そういったこともあってお互いのファッションの好みは熟知している。
「今日は全部同じ色ですか?」
「そうね…薬指だけ違う色がいいわ」
「取ってきますね」
ジェイドは小さな箱を取り出す。彼女のお気に入りのポリッシュは大体ここに収まる。今回持ってきた分もここに入ることになるだろう。
ジェイドにポリッシュの収集癖は一切ない。ナマエは手を自分で飾り、足は必ずといっていいほどジェイドの元に頼みにくるのだ。そのせいでコレクションボックスが出来てしまった。
「パールラメのゴールドにしましょう。相性が良さそうですしね」
「素敵!凄く上品だわ」
最後のひと塗りが終わって、一旦乾かす。
二度目に塗る前に最低十五分ほど間を空けなければならない。ナマエのおかげでついたあまり役に立たない知識だ。ポリッシュによってそれ以上かかる場合もあるが、彼女が貰ってくる質のいいものは大体が十五分あれば十分なのだ。
足をパタパタと軽く揺らしながらナマエは鼻歌を歌う。ジェイドはその様子をジッと見ていた。
彼女の肌は白い。絨毯の濃い色にそれはよく映え、浮かび上がっているようにも見える。
足を上下するたびに動く皮膚や、血管が生々しい。華奢な足に偶に光る金が心を揺らす。
「…そうだ、偶にはご褒美があってもいいのでは?」
「え?」
そういってジェイドの手が左足の後ろの辺り、足首から踵にかけてを軽く撫でて…
「ひっ!」
ちょうどそこに噛み付いた。力が入ってないので痛くはないが、背筋がムズムズする。
ジェイドが何度か舐めて、噛んでを繰り返していると、ナマエはぼろぼろと涙を落としていた。
「う〜…ゾワゾワする…」
「まだ乾いてませんからね。そこでいい子にしていてください」
ジェイドは部屋を出ていってしまった。
戻ってきてもう一度塗り終えて、そうする頃にはナマエはすっかりニコニコと上機嫌だ。
何故か癪に障ったのでもう一度反対の足を噛んで、涙を零しているところにアズールが出てきた。
「な、なんでそんなに泣いているんですか」
「あずうるう…やっとでてきてくれたのね…ひっく」
狼狽えるアズールと涙が止まらないナマエにジェイドは笑った。