まってるルーベライト


ナマエが彼らの元へ向かう時間は結構ばらつきがある。
コンサートが長引けば遅くなるし、休日だとほぼ一日中居たりする。それ以外にも、買い物だけしてから寄る日、今日の様に問題(、、)があった日には早く来る場合が多い。

「あら?今日はジェイドだけなのね」
「アズールは夜に帰ってくると思いますよ。フロイドは何処かへ行きました」
「はぁ…今日も忙しくしてるのね」
「寂しいですか」
「いいえ!アズールの頑張り屋さんなところがとっても好きだもの。もちろん全部好きだけど」

ナマエは自身のクッションを引っ張り出して、抱きしめながらソファーへ移動する。
ほとんど毎日来るものだから、彼女のクッション、食器や鏡などがおいてあって、寛ぐに十分な部屋となっていた。
名目上アズールの部屋となっている此処には、ナマエと三人以外入って来ることはない。

「今日はいつもより早いですね」
「ちょっとトラブルがあったのよ。長引かなくてよかったわ」
「最近そういうのが増えましたね。そうだ、お茶はいかがです?」
「あら素敵!お願いするわ」

慣れた手つきでカップを温め、準備をしていくジェイド。
ナマエは座ったまま後ろを向いて、その様子を見ていた。アズールもフロイドも、まずいお茶を入れると口をつけさえしない。そしてナマエは専門店に行き、お茶汲み用に宮殿に給仕していた者を引き抜くほど味にうるさい。多少はその自覚があるので、ジェイドは執事としての才能がありそうだ。

「はい。この前スカラビア寮の方に教えてもらった茶葉で淹れたんですよ」
「ジェイドは他の寮の方とも仲良くしてるのね。…アズールも、そうなのかしら」
「仲良く(、、、)したいとは言ってますけどね」
「心配だわ…皆にアズールの素敵さが広まっちゃう…」
「あなたの心配は絶えないですね」

向かい側にジェイドが座る。ナマエはいつだってアズールと一緒に居たかったけれど、この時ばかりは自分の性別が嫌になった。目の前の彼は、いつもアズールと行動することができる。でも、自分が女性だからこそ、甘やかされていることも知っているのだ。その甘やかしがたまに切なくなる。
ジェイドやフロイドを手足のように使うのに、ナマエは何かに使われたことなど思い当たらないのだ。
買い物に出かけたり、一緒に勉強したことはあっても、彼の役に立ったとは思えなかった。

駄目ね、よくない事があったから考えすぎになってるんだわ。
これ以上考えないよう、ため息を少しついて気持ちを切り替える。そういえば今日はお茶菓子を買っていたのだったと、バッグの中に手を入れた時だった。

「痛っ…あ」
「…腕を見せてもらっても?」

隠し事がバレてしまう。咄嗟にそう思った。

今日のコンサートは昼、夜の二部構成だったのだが、よくない客が紛れ込んでいたのだ。
開演前にこちらへ乗り込んで来て、一人で用意をしていたナマエの腕を勢いよく引っ張り、何処かへ連れて行こうとした。
結局自分の魔法でなんとか出来たし、すぐにスタッフが抑えにかかったので大事はなかったのだが、協力者がいないとも限らないので、今日1日は中止となった。今頃彼は死にそうな思いをしているだろう。ナマエのスタッフはコンサートにかける思いもそうだが、何よりナマエを大切にしている。

「ちょっと過剰な人がいただけよ。お客様ではなくなったし大丈夫」

そう言いながら右手を差し出した。
大人の男性の力だ。ナマエの細い手首に、赤黒い痣ができていた。
それを見たジェイドは目を細める。

「あなたには本当危機感といったものがないですね」
「そんなことないわよ」
「僕たち以外から傷を受けるなんてもっての外です。わかっていますよね」
「…みんな心配性なんだわ。過保護よ」

彼の柳眉がナマエの言葉に反応した。
ナマエは自分たちのものであるということの自覚が薄い。彼女は三人にとって大切なものなのだ。だからこそ丁寧に触れ、大切に箱にしまうように扱う。
プレゼントを贈ったり、彼女がしたいことは基本的に自由にさせる。それは、彼女が自分たち以外のところへ行かないようにするためだ。そんな事をしなくとも、きっとアズールから離れはしないだろうけど、自分たちが居らずとも生きられるようにしてはならないのだ。

ジェイドは手首を軽く持ち上げ、そこに軽く歯を立てた。
ナマエは痛みに顔をしかめたが、今自分が失言してしまった事の自覚があったので、何も言わない。

手首に噛み付いている口が離れた。噛み跡を撫でながらジェイドは目を細めて笑う。

「このままあなたの手首をいただくのもいいですね。歌うのに左手があれば十分でしょう」

さも良い提案と言わんばかりの顔だ。
ナマエは仕方のない子供に言い聞かせるように、優しい声で紡ぐ。

「困るわ。だって両手がないと手を繋ぐことも抱きしめるのも出来ないじゃない」
「…そうですか。それは残念です」

名残惜しそうに彼は腕を離した。




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ツユシグレ