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ジェイドとフロイドは驚いた。
アズールの様子はおかしいし、ここにいるはずのないナマエが、倒れている。
早く止めないといけない。幸いなことに監督生たちがいるので人手はある。
何より先に、アズールを止めなければ。

♥


なんとかアズールの暴走は止まり、無事意識を取り戻した。
彼のどうしても隠したい秘密はバレてしまったが、明日皆で返しに行くことも決まって一件落着と言ったところだ。
これで解散か、というところでラギーが声をあげた。

「そういえばエレメンタリースクールで思い出したんスけど、この女の子知り合いっスか」
「え、女の子!?」
「は、ナマエ!?」
「オレたちのとこにすごい勢いで来たと思ったら突っ込んで行くんだから何事かと思ったっス」

アズールは、そういえばナマエがいた気がする、とぼんやり思い出していた。何か話していた気もするが思い出せない。きっとナマエのことだから止めようと無茶したのであろうということはわかった。

「ナマエ、ナマエ、起きてください」
「早く起きなよ〜もうそろそろ帰んなきゃでしょ」

背の高い二人が起こしに行く様子をみると、周りの皆は取り立てのようで大丈夫なのかと思ったが、その手つきは優しいもので放っておいて大丈夫だと判断した。よくわからないがあの二人が執着しているようだし、大切な人なのだろう。

「…う、」
「あ、起きた?」
「大丈夫ですか?全くこんなところまで来て…」

大きな目がゆっくりと開く。随分キレーな子だとラギーは思った。彼女が自分たちの元に突っ込んで来たときは勢いが良すぎてわからなかったし、それどころではなかったのだ。
まあこれで問題もナシ、オレたち帰って大丈夫っスよねと言おうとしたときだった。

「ここは…私、」
「覚えてます?あなた倒れたんですよ」
「…アズールは、あ、」

上半身を起こして、アズールと目が合うと固まる。
アズールは少し縮こまりながらナマエを見ている。何を話したかは覚えていないが、巻き込んでしまった負目があった。

「あ、ご、ごめんなさい、わたし、」
「どうしたの」

ナマエは涙をポロポロ流す。それを見ていた全員はギョッとした。
どこか痛めているのか、ジェイドやフロイドは慌てて寝かそうとしたが、一番に動いたのはナマエだ。

「ごめっ、ごめんなさい!!!!」

そう言って寮の部屋へと猛ダッシュで帰っていったのだ。
全員唖然としたし、もしかして自分たちより足が速いのでは、とも思った。
とんでもないスピードで走り去ったナマエ。どういうことだとアズールに注目が集まる。

「なっ、なんです…。僕も何があったのかサッパリなのですが」
「あ〜…、アンタ、あの子に色々言ってたからっスかね」
「は?」
「何でしたっけ…必要ないとかなんとか」

聞いた瞬間、三人の動きが止まる。
そしてフロイドやジェイドは、それがナマエの地雷だとすぐに気付いて、彼女を追いかけていった。
残されたのは、ポカンとしたままのアズールと何が何だかわからないままの監督生達だった。

「えーと、大丈夫ですか」
「大丈夫じゃない…マズイことになった…」

アズールは頭を抱えた。

♥


「ナマエ、出て来なさい!!」
「ナマエ何してんの!んでこっちからいけないんだよ!」

二人は焦っていた。ナマエが冗談抜きで死ぬかもしれない。
どうにかして止めたいのに、こちらから踏み込むことができなかった。
ナマエはあんなに簡単に行き来していたのに、こちらから行けないとなっては打つ手がない。
とにかく何とかして連絡だけでも取らないと、大変なことになる。

「っそ!なんで!!」

鏡の淵を叩いたが、鏡が少し揺れただけで、変わらず焦った自分たちを映すだけであった。

♥


ナマエは絶望していた。
アズールは自分を必要がないと言っていたのだ。

ナマエはアズールに好かれていなくても、役に立てなくても、そばにいることができるだけで幸せだった。
アズールは自分を迷惑に思っていた。
使えなくとも、そばに置いてくれていると勘違いしていたのだ。
違った、違ったのだ。
邪魔になるくらいなら近くにいるべきでは無かった。彼の邪魔になるならいないほうが良かったのだ。
誰より自分が彼に迷惑をかけていたことに、死にたくなった。

ジェイドが、フロイドが何かを言っている。
この鏡は合言葉があっていないと目的のところへ行けない。
ただ、声は聞こえるし、壊すこともできない。今日ほど自分の才能を恨んだことはなかった。

これ以上、彼に迷惑をかけてはいけない。きっと死ぬことすら、彼にとっては迷惑だ。
必要なのはこれ以上関わらないこと。彼らにも会ってはならない。

「ごめんなさい…私…」
「謝るくらいなら出て来なさい!」
「っ何してんのそれ、オマエ、」

「ごめんなさい…」

ナマエは鏡を裏返した。

♥


翌々日。
ナマエはいつも通りコンサートをした。

ナマエの様子がおかしいことにスタッフは気付いたが、話しかけることすら出来なかった。
彼女は集中のスイッチがあって、その時に話しかけるのはご法度なのだ。
しかし一日中ナマエは集中しっぱなしで、話しかける隙もない。休憩時間は死んだように眠るだけだった。

夜の講演前尋常でない汗をかいていたが、本番が始まるといつも通り、いや、いつも以上のパフォーマンスをして見せた。止めようにも止めれなかった。
ずっと緊張の糸が張り詰めた状態で過ごしている。ナマエは別のことを考えていないと、アズールのことを思い出して駄目になってしまいそうだった。



「…ナマエ、普段通りにコンサートをしているようですね」
「ねえ、これ絶対おかしいよ」
「ええ。彼女が普通に過ごせるわけがない」

二人がアズールを見る。こうなることはわかっていたはずだという顔だ。

「…彼女の鏡は、まだ通れないのですか……」

アズールは鏡に触れる。
声も聞こえなければ、影も見えない。
自分の失言はわかっているが、謝りに行こうにも手段が断たれてしまった。もっともどんな顔をして会えばいいのかもわからないが。

アズールは覚えていた。彼女が震える手を握りしめながら家のことを告白した時、初めて彼女の部屋に迎えに行った日。前のように会えなくなったときのショックな顔も、この部屋で笑う幸せそうな顔も。
彼女が辛いとき、助けるのはいつだって自分でなくてはいけない。これ以上彼女を一人にしてはいけないのだ。

「絶対迎えに行く…!!!」




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ツユシグレ