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ナマエは無理をする日が続いた。
あれから四日。目を瞑ると彼を思い出してしまい、眠るのにも苦労する。
宝部屋は鍵をかけて、魔法で見えないようにして、食事が喉も通るはずもなく持ち帰り用にとスタッフに持たされた食事が玄関に積んである。部屋は灯りもつけずカーテンを引きっぱなしだ。
今日はコンサートも休みで、スイッチが切れたように寝ていた。
どうも眠りが浅くなっているようで、それでも八時には目が覚めた。このままぼうっとしていると、この部屋にいると、彼を思い出して辛い。
そうだ、何処か旅に行くのもいいかもしれない。
ナマエは最近開いていなかった本を取り出す。
愚かにも人に憧れた赤髪の美しい人魚の童話だ。人に憧れた彼女は…結局どうなったのであったか、思い出せない。
叶うはずのない思いを抱えているのは同じなのかもしれない。彼女は憧れた人間に迷惑だと思われていたらどうしたのだろう。ナマエが欲しい答えはないままだった。
出した本もそのまま、家を出た。
誰もいないところに行きたかった。
昔、どうしても抜け出したくなったときに、学校の近くにある少し開けた場所で数分だけ宙を見つめていた。
無意識にそこへ足が進んでいたのだ。
あの時から自分は何も変わっていない。臆病で何もできないナマエのままだ。誰かがいないと何もできない、つまらないナマエのまま。
あの時はアズールがいてくれたから、救われたのだ。
沢山のクラスメイトに囲まれていたって心が孤独だった。今だってそう変わらないことに気がついてしまった。
コンサートで大勢に歌を褒められても、自分の生きる手段でしかなかった。
ずっと彼にしがみついて生きていた。ジェイドやフロイドだって、彼がいたから仲良くしていてくれただけなのだ。
一人でも、心に寄り添ってくれる人がいれば孤独ではないのだろうけど、彼に迷惑だったということは、変わらず孤独であるということだ。
かといって何も知らない誰かに心を預けるほどの度胸はなかった。誰かに寄り添えるほどナマエは器用ではなかった。
そのままの臆病な自分を許してくれている誰かを振り払ったのは自分だ。
変わらなければならなかった。彼に助けられたあの時に、変わらねばならなかったのだ。
ナマエが一番初めに作った歌は、ここで彼に宛てたものだった。
自分が彼に広げてもらった世界をどうにかして伝えたかったのだ。その手段が歌だっただけなのだ。結局披露できるほどのものはすぐには出来ず、彼に聞いてもらったのは卒業後コンサートをして何回目か、たまたまその日のプログラムに入っていたというなんとも格好のつかない形であった。
ふと、ここでその歌を歌おうと思った。彼に広げてもらった世界を思い出して、やり直す。そういうつもりだった。上手くいかなくても、少しは変わるはずだと思っただけであった。それなのに。
「…!…っ、っ、」
涙が止まらない。歌おうとしても嗚咽が混じり、息は苦しく汚い雑音に塗れる。
自分は彼なしにやり直せるのか?彼との例え一歩的でも幸せな記憶を持ったまま振り出しに戻れるか?
そもそもアズールが居なければ、自分は存在していただろうか。
どうしても忘れられない。例えば、自分の歌声を失う代わりに記憶を無くすことが出来たなら―――
「代わりに、無くす…」
ナマエの瞳に暗い光がさす。
そうだ、そう。大事な記憶だけ、宝箱へと仕舞えば囚われることも、取られることも無くすこともない。
昔自分の両親へしか使ったことのない、それ以来一度だって使わずにいて、忘れていた自身のユニーク魔法。
両親の元から離れてすぐの間、アズールには彼や自分自身へ使うなと口酸っぱく言われていた。
条件は一週間忘れたい人物と接触しないこと。
「
あの時は両親に
あの時、ナマエはアズールのためにできることなら何でもしようと思った。
勿論言われたことは必ず守った。きっと彼のことだ、自分がその時アズールの重荷にならぬようにと、彼と自分自身へユニーク魔法をかけることを読んでいた。
あの時は確かに一瞬考えたが、アズールが与えてくれた新しい環境や、仲間や家族というものを理解するのに必死だったのだ。
ナマエのユニーク魔法を知っているのはアズールだけだ。
ジェイドとフロイドには話したことはない。きっとあの二人のことだから、
「き…きっとアズールも許してくれるわ…そうよ…」
アズールは間違いなく許さないだろう。わかっていても恐ろしくて口にすることは出来なかった。彼に怒鳴られたことなど片手で足りる。あの時はアズールに嫌われるのが心底嫌で、もう二度としないと誓った。
でも、もう必要ないお荷物なのだから、そんなことを気にしなくてもいいのだ。
ナマエは全力で泳いだ。