おやすみガーネット
今年もアズールがいない。
休みの日は帰ってくるものの、やはり日中会えないのは辛い。
ナマエはいつもアズールを想っているが、生憎アズールは勉学に励み、それどころでは無いだろう。
彼が一年生の頃は毎日手紙を送った。マジカメなるものを頑張って駆使したところ時間がかかり過ぎるし手紙を飛ばした方が早いのだ。そして何と言っても特別製のその手紙は、二分であればそちらと行き来できる。
だがしかし、である。
二分、二分だ。ナマエには短すぎた。話しかけて本題に入る前に何度戻され、何度涙したことか。
時間の合間をぬってその技術を応用させ、ようやくできたのがこの鏡だった。
開発凡そ一年。その手の学者が聞いたら腰を抜かすほど優秀な出来であるが、用途はただ一人に会うためだけである。
これを使えばいつでもどこでも彼の元へと行ける。
「さあ、愛しきアズールのもとへ!」
「…その掛け声何とかならないのですか」
「さいっこうに愛のこもった叫びじゃない!好きよアズール!」
「はいはい…」
仕方がないと言った顔をしているが、ナマエは知っている。
出てくる時間を伝えておいたから鏡の前で彼は待っていたのだ。
この鏡、入るときにそっと入ったところで出るときには勢い良く飛び出る。家で実験した時はつんのめって顔から倒れ、その場にいた全員に笑われた。
「やっと、やっとよ!貴方と過ごすための一年を無駄にしてしまったもの!今から取り返すのよ…」
「あなたなんだかんだで来てたでしょう…」
「おや、よく見た顔ですね」
「本当だ〜ナマエついに来ちゃったんだね」
「その憎らしい顔も久しぶりね!アズールはきちんと食事を取っていた?私がいなくて寂しくなかった?」
久しぶりに長くいられることもあって、ナマエの口はよく回る。
アズールは要領がよく、努力家だ。ナマエを大人しくさせる術はよく知っている。
「ナマエ、あなたに会えて嬉しいです。大好きですよ」
「か…か…」
「か?」
「過剰なファンサはダメなのよッ、ファンが増えちゃう!!私も愛してるわっ」
「ナマエ前よりひどくなってない?」
「そうですね。とりあえず黙らせますか」
そういって双子はナマエへ近づく。彼女はもらった言葉に涙目で見えていない。
アズールは我関せずと今日の復習のためにノートを開く。
ジェイドとフロイドは目を合わせて、大きく口を開けた。
「いっったぁあい!!!!!」
二人が耳に齧り付く。甘噛みなのだが、二人の歯は鋭く、ナマエはとても痛みに弱い。
こうされると三分程度は静かになって、少しは落ち着く。
双子はその反応が面白くてしているのだが、ナマエはもしかしていつか食料になるのでは、いや、そんなまさか、でも、と割と不安に思っている。
「ご、ごめんなさい。騒ぎすぎたわね」
「アズールはお勉強の時間なので、僕たちに構ってください」
「ナマエなんかないの〜?」
「なんかって言われても…」
ナマエはアズールに構ってもらう気のみで乗り込んだが、よく考えればたくさん時間があるということは、彼が何かをしている時間である可能性も高いということだ。
ナマエはアズールの努力家なところが好きだ。もちろん全部好きよ。そんなことを考えながら手を動かす。
彼女は天才と言っていい魔法の腕前を持っている。暇つぶしの道具など簡単に出せるのだ。
「ジャーン!超高級チョコレート!この前お客様に教えてもらったんだけど、」
「はぁ?また食いもん貰ってんの?」
「あっ、…忘れてたわ…」
「忘れてたで済むことじゃないですよ」
「い、いつも来てくれるお客様だし、」
「ナマエは何度も言わなきゃわかんないワケ?」
「…ごめんなさい」
ナマエは持ち前の美声で定期的にコンサートをしている。
コンサートといっても、少人数で、客との距離も近い。よって毎度チケットは争奪戦だ。
そして以前、手渡しのマカロンに魔法がかかっていた。
あの時は大騒ぎになったのだ。アズールと半分にしようとして、先に口にしたところ倒れた。
アズールが医者を手配して、双子が寝床へ運び、診断を受けた。
その時の記憶は一切ないが、呪いによって一週間ほど眠り続けたのだ。
「駄目ね…アズールにも、貴方達にも迷惑を掛けてしまうんだもの…」
「オレらがいないとナマエは駄目だなぁ」
「まあ僕たちがいるので大丈夫ですよ。ただそれは捨てましょうね」
「はぁい…」
ちょっと名残惜しいが命には変えられない。
勿論これそのものに魔法がかかっている可能性もあるが、何より約束を破れば双子に物理的に美味しくいただかれる可能性がある。
「どうせナマエは毎日来るんでしょ?」
「どうせって何!?私はこれでも忙しいのよ」
「でも来るんでしょう?どうせ」
「くっ…そうよ、何か悪い…」
「じゃあさ!アズールがどっかいる間はオレたちと遊んでよ」
「それはいいですね」
いい案かもしれない。そう思ったが口には出さなかった。
ただ、無言は肯定である。双子は相変わらずだと笑みを浮かべた。
「…二人とも、あんまりナマエで遊びすぎてはいけませんよ」
「じゃあアズールはずっと構ってるの?」
「そういうわけにはいきませんが…」
「いいのよ、私はアズールと同じ空間で居られるだけで幸せ。心配してくれる優しい貴方が大好きよ」
「…まああなたが良いのなら。お話はいいんですか」
「話を聞いてくれるの?もうお勉強はいいの?」
「日頃からきちんと勉強しているので。話終わったら帰るんですよ」
「はぁい!あのね、今日は…」
「今日は終わりですね」
「明日か〜、もうちょっと遊びたかったのになぁ」
双子は引き際をよく知っている。
アズールが自主的にナマエと話している時は極力邪魔はしない。
ナマエがアズールに話しかける時は入るが、逆は決して割り込まない。
アズールがナマエに話すことを許可したのだ。それを邪魔されるとナマエはとんでもなく怒る。
例えばそう…彼女の怒鳴り声は高いので、教室のガラスを一面割ってしまったことがあった。
あの瞬間から、みんなに人気者のナマエちゃんは恐怖の対象となって、別の意味のカーストトップになったのだ。
「ねえ、オレとジェイド、どっちの方が好きだと思う?」
「変わりないと思いますよ。アズールと僕たち、それ以外はゴミと言っていましたからね」