Life is wonderful


今日のリップはこの間手に入れた限定のこれにしよう。唇を擦り合わせるとキラキラ輝くラメ、一瞬でも自分がこの世界でいちばんのお姫様になった気がするこの時間が好き。そんなこんなしていると、あっという間に出発しないといけない時間、あ、そうだそうだ、仕上げにキープミストを数プッシュ、よし、オッケー。車の鍵も持った、忘れ物なし!


待ち合わせ場所に指定したコンビニの駐車場、「着いたよ」とメッセージを送信する。少しして窓を軽く叩く音が聞こえ、顔を上げると、今日も可愛すぎる彼が助手席側の窓からこちらを覗いていたので急いでドアロックを解除する。

「待たせてごめんな、お迎えありがとう」

「ぜんっぜん!流星今日もかわいいね〜輝いてるよ」

「お邪魔しまーす、それを言うなら名前ちゃんもやろ、限定リップ見せびらかしちゃって」

そう言いながら助手席のドアを閉める流星。「気づいた?」「当たり前やん俺も欲しかったもんそれ」と、今日もコスメトークでスタートだ。流星とは時間が合えば一緒に買い物に出かけることが多く、メンバーの誰よりも趣味が合う。今日は私の運転で都内からは少し離れた郊外のアウトレットへ向かう。


目的地に着くと、まずは腹ごしらえ。2人でふわふわのオムライスを食べ、デザートにスタバでフラペチーノ。そのあとはお互いに気になるお店に入りあれもいいこれもいいと言い合って。思わず買いすぎて、両手が荷物でいっぱいになった時には「名前ちゃんはしゃぎすぎて自分の手のキャパわからなくなっとるやん」とサラッと荷物を半分持ってくれる。あんなに可愛い顔面を持っていても、めちゃくちゃイケメンな行動ができるの、きゅんきゅんが致死量を優に超えるのでやめてほしい反面、もっとそのギャップに溺れたかったりもする。これは私以外はきっと味わえない、同期、メンバー、友達を兼務している特権なのである。


そんなギャップを噛み締めながら一通り買い物を終え、駐車場に向かう。「また散財しちゃったわ〜、お仕事頑張らないと」「それな〜流星店員さん並みに営業上手かったよ、まんまと買っちゃった」と今日の買い物を思い出しながら、車の鍵を開けた。

お互い車に乗り込み、さっき買ったカフェラテにストローを刺し、エンジンをかけようとした時、流星は改まってこちらを向いた。

「いつも運転ありがとうな、名前ちゃんのおかげで周りを気にせず買い物できるわあ」

「急にどうしたのよ〜何か企んでる?」

「ひどいわ〜何も企んでへんって、ほんまに」

そうにこにこしながら西日のオレンジに照らされる流星は、いつもよりもさらに綺麗に見えた。

「じゃあ私も…、こちらこそいつもありがとう、今日もこないだ流星が選んでくれたシャドウ使ってるよ」

「そうなん?目閉じてよく見せてや〜」

疑いもなく、言われるがままに、目を閉じながらドヤ顔で「ほら見て〜!」と改まって流星の方を向いた時、唇に暖かい感触が触れた後、ちゅ、と控えめなリップ音が車内に響いた。

「…え?」

何が起きたのか理解するまで、どのくらいかかったのだろうか。いや、どれだけ時間が経とうが理解できない気がする、今私と流星に何が起きた。

「ほんまや、めちゃくちゃ似合っとるやん」

「…いや、そうじゃなくて」

「あれ、今チーク塗った?ほっぺ赤くなっとんで」

チークを塗りたくったかのように赤くなった私を見ながらケラケラ笑う流星は「も〜はよ帰ろうや、暗くなっちゃうで」と、何事もなかったようにしているけれど、私だって気づいてるよ、流星の耳が赤くなってること。この日を境に私たちの関係性の兼務がさらに増えたことは言うまでもない。


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