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東京から新幹線に揺られ、およそ1時間半。辿り着いたそこは東京とさほど変わらない茹だるような暑さ、北に約300km移動したはずなんだけど。
「夏の仙台、思ってたより暑いですね…」
「そうねぇ、平地だし、たかが300kmだからね」
「地球温暖化、結構深刻ですね」
想像以上の暑さに嘆く私たちは、取引先の工場視察のため、仙台までやってきた。営業でも視察とかするんだなあ、と配属されて3ヶ月の、この課の仕事の大変さを改めて実感する。
「松村さーん!名字さーん!こちらです」
仙台駅のロータリーで私たちを迎えてくれたのは、仙台支店の伊藤さん、仙台駅からは車で移動するため、諸々の手配をしてくれていた人だ。事前に当日のスケジュール確認で何度か電話でやり取りさせてもらっていたけれど、直接会うのは今日が初めて。…なのはどうやら私だけだったようだ。
「松村さんお久しぶりです〜!」
「伊藤さんご無沙汰してます、元気そうでなにより」
「あの頃は毎日のように顔を合わせていたのになぁ…」
「はは、懐かしい」
なんだろうこの空気は。心なしかいつもの松村さんよりも柔らかいというかなんというか。2人の周りにはお花と蝶々のエフェクトでもかかっているかのような。って、私は何を気にしているんだ、そりゃあ弊社は転勤のあるそこそこ大きな会社だし、過去に同じ部署で働いていた人と再会することなんてざらにある。懐かしの元同僚に会えたら誰だって嬉しいよね。
「あ、名字さんは初めまして!今日はよろしくお願いしますね」
「あ、ハイ、よろしくお願いします」
「車こちらのハイエースです、足元気をつけてくださいね」
それまで松村さんと談笑していた伊藤さんが私の名前を呼んだので、ハッと我に返る。そして車へと誘導され、既に歩き出していた松村さんの後を追った。ハイエースなのでバスほど広くはなく、私が乗り込んだタイミングでは既に最後部座席は仙台支店の方々で埋まっていた。空いている席は、松村さんの隣か助手席。しかし既に助手席には伊藤さんが乗り込もうとしていたので、残されたのは松村さんの隣のみ。どうしたものか、4月の歓迎会でのあの出来事から変に松村さんを意識して、ことあるごとにモヤモヤしている自覚はある。果たしてそれがどういったジャンルのモヤモヤなのかは置いといて。
「名字さん?ほら、出発しちゃうよ」
なかなか座らない私に痺れを切らしたのか、松村さんが自分の隣の空いてる座席をぽんぽん、と叩いた。
「は、はい、お隣失礼します…」
「はは、何それ」
大人しく松村さんの隣に座る。「シートベルト差すところここね」と丁寧に教えてくれる、どこまで面倒見がいいんだこの人は。
職場のデスクは隣り合わせ、教えてもらうことがあれば松村さんのデスクに少し寄ったり、松村さんがこちらに寄ってくれたり、その距離感には特に疑問を持たず、仕事していたつもりだったけれど、今は違う。道路の些細な段差で車が揺れるだけで肩が触れ合うこの距離。このままだとまだ気づくには早すぎる、先ほど感じたモヤモヤの正体がわかってしまいそうなので、早く目的地に着いてください。