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「嫩ちゃん、教え方上手だね!」
「ううん、京子ちゃんの覚えがいいんだよ」
「いや、嫩の教え方が上手いのはほんとよ」
「え、そう?それなら良かった」

放課後の教室で京子ちゃんと花ちゃんとテスト勉強をすることになった。高校ではないので、正直そこまで難しい内容ではないけれど、現役中学生時代からしてみれば難しく思うところもあるのだろう。たしかに中二からの授業は高校受験を視野に入れ始めるからか、先生の熱も入り難易度も上がっている気がする。真面目な2人は、復習がてらきちんとテスト勉強をする子達のようだ

「あれ、まだ残ってる」

ガラリと会いた教室のドアから蓮巳くんが顔を覗かせた。

「あ、蓮巳くんもテスト勉強?」
「うん、ちょっと先生に質問しに行ってた」
「嫩ちゃん、お友達?」
「うん、隣の席の蓮巳くん。蓮巳くんもね、頭良いんだよ」
「えっそうなんだ。笹川京子です、はじめまして!」
「黒川花よ」
「蓮巳亮、よろしく」

ガタンと隣の自分の席に腰を下ろした蓮巳くんが、当たり前のように机をくっつけて来て、私もそれを当たり前のように受け入れる。「なに聞いてきたの?」「日本史」「暗記物か……私苦手なんだよね……」という会話をしながら、蓮巳くんも教科書を開いた。今日は持ってきてるんだね。
と、そんな私達のやり取りを見ていた京子ちゃんが目をキラキラさせ、花ちゃんがニヤニヤしているのが目の端に見えた。

「えっ、な、なに」
「2人って付き合ってるの!?」
「ええ!?いやいやそんなことは、ねえ蓮巳くん!」
「……ご想像にお任せします」
「そこは否定するんだよ!!」

何を面白そうみたいな顔してるの!!

「ちがうよ、付き合ってないよ」
「そうなの?」
「美男美女でお似合いよ、あんた達」
「蓮巳くんは確かに美男だけど私はちがう!」
「さらりと初めて褒められた」
「前から思ってたよ!」

思ってたんだ、とくすくす笑う蓮巳くんに、ハッとして恥ずかしくなる。京子ちゃんと花もなんだか笑ってるし。あーもう。ペースを崩されっぱなしだ。
コホンと1つ咳払いをして、教科書をぺらりと捲る。

「ほんとに、ちがうからね」
「だそうです」
「そうなんだー残念」
「京子、あんた素直すぎ」

中学生の頃ってこんなに人の恋路に興味あっただろうか。いや、私が興味が無かっただけかもしれない。ほら勉強するよ、と一声かけるとみんなまた教科書に向かい始めた。









「ちょっと暗くなってきたね、そろそろ帰ろうか」
「あ、ほんとだ」
「京子ちゃんと花ちゃんは一緒に帰るんだよね?」
「うん、嫩ちゃんも一緒に帰ろう!」
「私まだ先生のとこにちょっと行かないといけなくて。家も近いから大丈夫だよ。2人はこれ以上暗くならないうちに帰って」
「ん、分かったわ。あんたも気を付けて帰るのよ」
「またね、嫩ちゃん!今日はありがとう!」
「いえいえこちらこそ」

またねと手を振り去っていく2人の背中を見送る。あーかわいい、幸せな時間だった。と思いながら横を見ると、真顔で蓮巳くんが突っ立っている。あれ、帰らないの?

「俺バスなの」
「そうなんだ、時間大丈夫?」
「いやもう過ぎた」
「ええ!?うそ!?ごめんね!?」
「いや、蕪木さんが謝ることじゃないし」
「で、でも……。次のバスは?」
「もうちょい先」
「そっかあ」
「そ、だから早く先生とこ行くよ」
「うん……え?」
「早くして」
「あっ、うん、はい」

手早く机の上のテキスト類を鞄に詰め込んでいた蓮巳くんに倣って、私も片付ける。ん?ん?今の流れどういうこと?と思いながら片付けていると、先に帰り支度の終わった蓮巳くんが携帯を触りながら待ってくれているのが目に入る。そっか、待ってくれてるのか。

「ふふ」
「え、何笑ってんの」
「いやーえへー」
「気持ち悪いんで先に失礼します」
「えっ待って!一緒に帰ろうよ!」
「んじゃ笑ってないで手を動かして」
「はーい」

年下の男の子。ときめくとか、そんなんではないけれど、すごくむず痒くて、恥ずかしくて、嬉しい。「男の子だなあ」と笑いながらつい口から出た言葉に「意味がわかりません」と突っ込まれた。
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