※not監督生
モストロ・ラウンジは今頃閉店作業をしている最中だろうか。早めに上がったフロイドと私はプラプラと夜の散歩と称してNRCの中庭を歩いていた。夜ご飯代わりの賄いをたらふく食べたので、少し運動をというわけだ。フロイドはおもしろそうとだけ言って勝手についてきた。空を見上げると満天の星がフロイドと私を見下ろしていた。天の川すら見えそうなほどに星々が輝いている。
「海からの夜空はどんな感じだったの?」
「 そもそも海から星は見えねーって知ってたぁ?」
「直接は見えなくてもこう、水面に光はさすでしょう」
「こんなちっぽけな光じゃ海底には届かねーよ」
「あれ?海底住みだっけ?」
「残念、穴育ちでーす」
そう言って、また空を見上げる。普段はあまりこういうことをしないのだろうか、なんとなく居心地が悪そうというか収まりが悪そうだ。
「解説でもしてあげようか?」
「興味ねーからいい」
「冷たいなあ」
「...ジェイドなら聞きたがったかもね」
「ジェイドが?」
「ジェイド、星見るの好きだって言ってたし」
「へー、なんか意外というか予想通りというか」
「オレは興味ないけど」
「それはさっき聞いたよ」
つまらなさそうな顔をして、私のつむじを押した。力加減という言葉を知らないので、死ぬほど痛い。ぐいぐいと手をのかして、つむじをガードするけど、余計つまらなそうに口がへの字に曲がる。もしかしたら拗ねてるのだろうか、何に拗ねているのかはわからないが、とにかくつむじへの集中攻撃はやめてくれ。
「弱っちい小魚のくせに生意気」
「理不尽すぎるわ」
フロイドの手が伸びてきて、絞めあげられる。まるで子どもがお気に入りのお人形を力一杯抱きしめるようだ。私は静かに肋骨に別れを告げる。ミシミシと全身から音がしている、ぼっきり折られそうだ。息も苦しい。全身の骨に別れを告げて、いよいよ意識ともおさらばかなという時に両手の力が緩んだ。
殺す気かと叫びたかったが、それよりも身体が新鮮な酸素を欲しがっている。ぜーはー、と吸って吐いてを繰り返していると今度はズシリと体重をかけられる。
「おもいおもいおもいおもいおもい」
「ははは潰れそー」
「潰しそうの間違いだろ!」
それよりも星を見なさい、とどうにか押し返す。あ、舌打ちが聞こえた。さすが海のギャング、素行がよろしくない。とはいうものの、一応私のいうことを聞くつもりはあるらしく、頭を上げる。その動作をみて、ずっと抱いていた違和感の正体がわかった。191cmの長身が何かを見上げているという状態がおかしかったのだ。普段は見下ろしてばっかりだし。一人納得していると、横のフロイドが落ち着きなくゆらゆら揺れている。極度の気分屋で飽きっぽい彼にはそろそろ限界らしい。
「...首痛くなってきたから帰ろー」
「...はあ、わかったよ」
待ちきれなくなったフロイドが半歩先に進んだ、そして何かを思い出すかのようにこちらを振り返ると、右手を差し伸べられた。私は、少し驚いたけど、手をとった。フロイドの右手はひんやりとしていて、なんとなく落ち着かない。私の手のほうが熱い気がする。手汗までかいてきそうで恥ずかしい。二人の温度が混ざり合って丁度良くなったりしないだろうか。もっと強く握り返してもいいのだろうか。ぐるぐる考えがめぐる。さっき絞めあげられたときのように息が苦しい気がする。そんな私に合わせて普段の彼よりもゆっくり歩く。どうにかなってしまいそうだ。ふと目に入った中庭の池に鈍い月明かりが反射していた。
星がよく見える日に月は輝きを鈍らせる。かの有名な文豪はI love youを月が綺麗ですねと訳したそうだが、今はどうだろうか、月よりも星が煌めいている。
私ならなんと訳すだろうか。
フロイドを見上げる、彼越しに何千何万もの星がこちらをみているような気がした。