「ドキドキしてるね?」




※監督生

今週末は二人とも予定が入っていないから久しぶりに一緒に過ごそうと約束していた。金曜日に夜更かしして映画をみて、土日はゆっくり過ごすこれが私たちの定番の過ごし方だった。自分のお気に入りのお菓子を買ってワクワクしながら先輩の帰宅を待つ。お菓子は自分のものだけ買っていくのが暗黙の了解だった、先輩は飽きっぽいのでその時の気分で買うのだ。映画も同じ理由で先輩チョイスである。

「ただいまぁ」
「おかえりなさい」
「あー疲れたぁ」
「お疲れさまです」

 191cmの巨体が寄りかかってくる。触れる素肌やコートが冷たい。ついでにほっぺたをグリグリ押し付けてくる。この先輩は北の寒い海出身ゆえに寒さにはべらぼうに強い。真冬に半袖で出かけようとするくらいだ。一方、ただの人間の私は熱を奪われて震えるのみだ。正直一刻も早く離れてほしい。暖炉にあたりに行きたい。

「今日は何見るんですか?」
「これー、アズールのおすすめだってー」
「間違いないやつじゃないですか」
「ね、間違いないね」
「お風呂沸いてますよ、あとご飯食べるなら私の残り物があります。」
「ご飯は食べてきたから、明日食べるー、お風呂入ってくんね」

 コートとストールを受け取って、風呂へ送り出す。自分のことは自分でやるのがこの家のルールだが、物の管理がずさんなところがあるので、失くすと困るようなものだけ代わりにやってあげることがある。それ以外は床に散らばっているのをみたら、一声かけてあとは放置だ。そのあと捨てても文句は言わせない。

 フロイド先輩が風呂に入っている間に映画鑑賞の準備をする。飲み物とお菓子を用意して、ブランケットとクッションをセットする。アズール先輩おすすめの映画をDVDデッキに収納して、はじめのCMを流しておく。このプロモーションを飛ばせないのが私もフロイド先輩も嫌いである。
 
「小エビちゃーん」

 風呂場から声がする。

「なんですかー!」
「髪の毛乾かしてー」
「嫌です自分でやってください」
「けちー!」
「この前私に同じこと言ったじゃないですか!」
「ちぇー」

 小エビちゃんのバカ!もう知らない!と捨て台詞を吐いてから、ワンテンポ置いてドライヤーの音が聞こえる。ものの5分くらいで音が止む。あの人別に髪の毛が特別長いわけではないのだから、さっさと乾かせばいいのに。

 ソファに座って先輩を待ってるとペタペタ足音を立てて風呂から帰ってきた。

「あとは字幕とかいじるだけですよ」
「すげー、ダンドリいいねー」
「もっと褒めてもいいんですよ!」
「うわ、その顔うぜえ」
「もう!」

「どっこいしょ」
「ぎゃ!」
「はは色気のねー声」
「猫もつみたいに持たないでくれませんか!?」

 脇の下に手を入れられ、持ち上げられる。ソファに座っていた私を退かして、私の座っていた位置に座る。それから自分の膝の間に私を下ろす。最近の先輩の好きな座り方だ。

「ねーこのブランケットいるのー?」
「人の話を聞いてください!」
「いるの?いらないの?どっち?」
「い、り、ま、す!!!」

 人に話を聞く機能をこの人に実装してください。

 ブランケットを被った先輩に包まれる、今回はさらに足まで絡みついている。前後左右からぬくもりを感じることができる。今日は特に寒いので暖を取るという意味でも良い座り方だ。
 映画が始まる、今回の映画はヒューマンドラマ系らしい。何より目を引くのはビジュアルの美しさだ。場面一つ一つそれ自体が一つの美術作品のようで目を奪われる。
 
 膝の上に置いていた右手に先輩の右手が重なる。しばらくそのまま私の手を覆うだけだったが、するりと下に入り込んで指を絡める。やさしく、握られる。それだけなのにやけに心臓がうるさい。

「ドキドキしてるねえ」
「なんか、手繋ぐの久しぶりな気がしたんで...」
「そお?」

 スリ、と絡めた指で手の甲を撫でられる。待ってくれ、触り方がなんかやらしいぞ。触り方が一つでなんでこんなにも雰囲気が出るのだろうか、年上の魅力ってやつなのか。
先ほどの言葉を心の中で訂正します、こうやって優しく手を握られるのが久しぶりなのだ。痛いくらいぎゅっとされるのはよくある。

「小エビちゃん映画ちゃんと観てるー?」
「っ、みてます!」

 タイミング良くベッドシーンうつさないでもらえますか。

「ホントにぃ?」

 耳許で囁くのもやめてもらって良いですか。というかこれ色々とまずいぞ。身体はすっぽりと包み込まれて、左耳は吐息すら聞こえるほど近くにくちびるがある。右手は未だにすりすりとやらしく撫でられている、先輩の足も絡まっているので、自由もほぼ聞かない。おまけにテレビにはベッドシーンがまだ映っている。そういう雰囲気に五感が支配されてる。ドキドキは治らないどころか悪化していく。唯一自由な左手でパーカーを握りしめる。なんかもうダメだった。


以下おまけ


「せんぱい、映画止めてもらっても、いいですか」
「なんでぇ?」
「ベッド、行きたいです...」
「えっちなシーンみて小エビちゃんもヤる気になっちゃったのぉ?」
「うぅ...そです...」
「はは、えっち♡」
「色気ありすぎる先輩が悪いんです!」
「オレに とか、
ホーント生意気になったよねぇ」

 唇が重なる。
繋がれた右手に力を込める。

「あは、エロい顔」


フロイドはリビングで「ドキドキしてるね?」と言われる。ポイント:手と手を絡めあって







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