唇
「あ、キャンベルさん。ちょっといいかしら?」
「?なんでしょうか」
「貴方この前……あら?」
ポケットから何かを渡そうとしてきたのは医師、エミリー・ダイアー
一体なんだろうかと頭を捻る
「どこか悪い所でも見つかりましたか?」
「悪いと言うわけじゃないんだけど……この前唇が切れていたでしょう?」
確かにこの前唇が切れていた、気がする
自分の唇はいつもカサついているは分かっている
切れて血の味がしてもそれはいつもの事で特に気にしたことがなかった
「それでね、リップクリームを荘園主に用意してもらったのだけど……もう必要無さそうね」
そういえば、ここ2〜3日はカサついた感じがしない
「なにかした?」
「さぁ……特に何も……」
「ビタミンを摂ると良いのだけど……なにか心当たりはある?豚肉とか、果物とかを多く摂取したとか」
「食事は出されるものしか……」
「そうよね……不思議。とにかくまた荒れたら大変だから、はいこれ」
先程のリップクリームを渡された
「ありがとうございます」
「なにかあったらちゃんと言ってね」
そう言ってダイアーさんは行ってしまった
ノートンには本当に心当たりがないようで首を傾げる
突然治るものではないと彼女の口振りでわかる
分からない
とりあえず渡されたリップクリームをポケットに仕舞い、本来の目的へ急ぐ
コンコン
いつもの扉をノックする
「どうぞ」
中から住人の声がし、ドアノブに手を伸ばした
「いらっしゃい」
「お邪魔します」
部屋はいい匂いが立ち込めている
彼が紅茶いれて待っていてくれたようだ
「いい匂い」
「ふふ、今日はピーチティーだよ」
「この間からフルーツティーばっかりですね」
「そうだったかな」
座るように椅子を引くいジョゼフ
指示されるまま席に着く
ふと先程の会話を思い出した
「果物……」
もしかして
「ジョゼフさん」
「なんだい?」
「あの、このフルーツティーって……まさか僕のため、ですか……?」
「さぁ、どうだろうね」
はい、と茶菓子を渡される
多分彼からは直接教えてはもらえないだろう
しかし、否定しないという事は……
自分のため、そう思うと嬉しくなった
ジョゼフに聞こえないくらいの小さな声で囁いた
「ありがとう、ございます」
「うん?何か言ったかい?」
「美味しそう、と言ったんですよ」
「もちろん美味しいとも。さぁどうぞ」
「いただきます」
この温かい気持ちはきっと紅茶のせいだけではないだろう
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