悩の種
はぁ……とため息を付いては空を見上げる
もう何時間もそうして時間だけ過ぎていく
任された仕事はひとつも終わっていない
「どうしたんだい」
君らしくない、と話しかけてくる片割れ
彼は今幸せに満ちている
そんな彼にこんな話はしたくないのだが頼れるのもまた彼しかいなかった
「昨日、フラれてしまったんだ……」
「例の子かい?」
「うん……最後にしたいって言われてしまったよ」
「そう」
席を立ち自分の手から書類を取り上げる
サラサラとサインをしてポイ、と机に投げた
「これだけのことも出来ないくらいショックなんだね」
「そりゃ……」
「分からなくもないけど、ね」
そう言って彼の頭を撫でる
久しぶりのこの手が心地よくつい口が軽くなった
「……好きだったんだよ、本当に」
「うん。通っていたものね」
「まだ友達だったけど、もしかしたらって思ってたんだ……」
「夜にしか会えないのが嫌だったのかな」
「わからないよ……でも最後にってことはもう会わないってことでしょ?」
会えない
そう再確認したら心が潰れるような思いだ
「でもさ、よく考えたらこんなよくわからない奴より、もっといい人が居たってことかなって」
「他に好きな人が出来たって言われたの?」
「ううん、でも彼は……」
そこまで言ってハッと口を噤んだ
あぁ、そうか
「その子は……人間なんだね」
「……うん」
「だから私にも内緒だった訳だ」
「ごめん……でも、とてもいい子なんだ」
「そのいい子が突然会えない、と?なにか予兆はなかったのかい?」
「……たしか、君たちの結婚式について色々教えて貰っていた時から変な感じはした」
「それ、お相手の方は勘違いされているのでは?」
カチャリと扉が開きお茶を持って入ってきたのは片割れの相手
どうぞ、とカップを渡される
「勘違いって?」
「おそらく結婚するのは血影様だと思われたのでしょう」
「私が?誰と?」
「さぁ?血影様自身の結婚式の相談をされてると勘違いして相手がいるのなら自分は身を引かなくては、と思われたんじゃないかと」
「つまり勘違いでフラれたってことか」
「え、なにそれ。納得いかないんだけど」
どういう相談をしていたのか聞いてみる
確かに自分とは言っていないが自分ではないとも言っていなかったようだ
「会いに行かれてはどうでしょうか」
「誤解を解くのは早い方がいいよ」
「でも……」
会ってくれるかどうかはわからない
そう落ち込む血影
「ここでため息ばかりついているより有意義だと思うよ」
「もしダメだったら?」
「ダメじゃないからさっさと行ってきてください」
「なん、え?なんでそんなに冷たいの?」
「彼に心配ばかりかける人は嫌いです」
どうやら彼を怒らせてしまったらしい
「怒らないでよ流浪」
「怒ってません」
「怒ってるじゃん……」
「機嫌が悪いだけです」
「まぁまぁ……血影、仕事はいいから行っておいで」
怒る彼を宥めながら背中をポンポンと叩く
ちょっと、と流浪は文句を言うけど彼には敵わないようでそれ以上は言わなかった
「……行ってくる」
「うん。早く解決して仕事が出来るようになってね」
向かうのはあの教会
彼が居るかなんてわからない
しかし居るならあそこだろうと信じて
1羽の蝙蝠が空を飛んだ
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