恋の華
誰もいない教会
彼がここへ来るはずないのに
それでも自然と足が動いていた
「馬鹿だなぁ……」
夢を見ていたのだろう
長く心地よい夢を
門の前で立ち尽くす
出会った日は少し寒かった
ちょうど今日と同じくらいだった気がする
ずっとここに居ても邪魔になるだろうと中へ足を踏み入れた
ひとりでバージンロードを歩く
祭壇の前に立ち振り返る
自分以外は誰もいない
多くの人がここで式をしただろう
彼も、ここではない別の場所で同じように……
想像したくない
頭を振り乱す
「そんなにしたら怪我をするよ」
聞き覚えのある声にハッとする
バッと顔をあげれば恋しく思う赤
あぁ、彼がそこにいる
「ノートン」
彼が動く
手を伸ばしノートンを腕の中に閉じ込めた
「ち、ちか……」
「ごめんね、ノートン」
謝られた
なにを?
わからない
混乱する頭
そんなノートンを他所に血影は語る
「もしかしたら君は勘違いをしているんじゃないかって」
「か、かん、違い……?」
「君、私が結婚したと思ってないかい?」
ノートンの目が丸くなる
そんな顔も出来るのか、とつい眺めてしまった
「……違うんですか」
「うん、全然違うよ。結婚したのは私の兄」
「お兄さんが……」
彼に兄弟が居たなんて知らなかった
そういえば自分は彼のことを何も知らない
「ちゃんと伝えていなかったからそう思ってしまったんだろう?だから、ごめんね」
「ううん……僕が勝手に……」
ぎゅう、と抱きしめる力が強くなる
それに答えるように彼を抱き返す
相変わらず氷のように冷たくて心地よい
しかしいつもと違い心臓の音が早かった
「ねぇ、ノートン。聞いてくれるかい?」
「はい」
「私は君のことが好きだよ。だから、また会いたい」
「ぼく、は……」
好きだと、言っていいのだろうか
血影の顔を見る
真剣な眼差しでノートンを見ていた
自分の好きと同じだと、思っていいのだろうか
「僕も……僕も、貴方が好きです……初めて会った、あの日から……」
「一目惚れってやつ?」
「そう、ですね……」
「ふふ、嬉しいな」
私もだよ、と額に口付ける
こんな事があっていいのだろうか
自分はまだ夢を見ているのではないだろうかと頬を抓る
「何してるの?」
「夢じゃないか、と……」
「夢であって欲しかったかい?」
「……いいえ」
彼の胸に顔を埋める
ほんのり花の甘い香りがした
「また私と会ってくれるかい?」
「貴方が望むなら」
ふふ、と笑う不器用な笑顔が愛おしい
彼が好きなのだと教えてくれる
「あの時とは逆だね」
「本当だ」
笑い合う2人
その姿は今まさにここで式をあげた恋人達のように見えた
スルリ とノートンの頬へ落ちた血影の細長い指が彼の唇をなぞる
ノートンは自然と目を閉じていた
触れるだけのキス
昨日のものとは比べ物にならないほど嬉しい
「君に、私のことを知って欲しい」
「僕も知りたい……教えてください、貴方のことを」
「じゃあまた、君の家に招待しておくれ」
「もちろん」
嬉しそうな彼を抱き上げる
驚いたような顔もまた愛おしい
ふたりの夜はまだ長い
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