真の華
「どうぞ」
「ありがとう」
ノートンの家に来たふたり
前に来た時と変わらず何も無い部屋だった
「ねぇ、前にも思ったんだけどカーテンはないの?」
「暗すぎると嫌なことを思い出すのでそういうものは付けないんです」
「ふぅん……まぁ、ここなら見えないからいいか」
含みのある言い方をする彼
なにか見せたいものがあるようだ
しかしそれを見せるのは自分だけがいい、というのもわかった
「今から話すことはとても信じられないことだと思う。でも君には信じて欲しいんだ」
「はい……貴方は嘘は言わないって、わかっています」
「ふふ、ありがとう……あのね、私は人間では無いんだ」
目を見開くノートン
想像通りの反応だ
でもすぐにいつもの彼に戻る
「……なんとなく、そんな気はしていました」
「おや、なにかそう思わせることをしたかな?」
「いいえ、人間とは思えないほど、貴方は綺麗だから……」
そんな理由で、と今度は血影が目を見開く
面白い子だとは思っていたがそれは彼の想像以上だった
「その姿は、その……変装とかしているんですか?」
「いいや、この姿が本来の姿だよ。でもちょっと待っててね」
少し距離を取られる
離れた血影からメキメキと骨が折れる様な音がする
自分が痛いような錯覚をするほどだった
音が怖くてつい目を強く閉じる
「大丈夫だよ、目を開けて」
そう彼の声が聞こえた
恐る恐る目を開ける
目の前の彼は先程とは違い腰の辺りに赤い翼が生えていた
最初は血で赤いのかと思った
しかしよく見ればそれは元々赤く彼の目と同じ、宝石のような赤だった
「……綺麗」
「ありがとう」
「あの、種族を聞いても……?」
「私達は自分達のことを血族と呼ぶ。でも君達人間はヴァンパイアと呼んでいるみたいだね」
「ヴァン、パイア……」
ノートンの顔が青くなる
それは良い意味を持たないと血影は理解した
今まで出会った人間達が口を揃えて言う言葉を彼の口からは聞きたくなかった
「安心しておくれ、君の血を吸ったり食べたりなんてしないから」
「ぁ……いや、そんなつもりじゃ……っ!」
気を悪くさせたと思ったのだろう
必死さが伝わる
この子は本当に優しい子だと心から思った
「良いんだよ。苦手だったり、嫌いだったり、そういうのは誰にでもあるからね」
「た、確かに、ヴァンパイアのことは苦手だけど……っ!でも!血影のことは好きだから!あの……その……」
「いい子だね、ノートン」
ありがとう、とノートンの手を取り甲にキスを落とす
自分で言ったことが恥ずかしくなったのか、それともキスで照れたのか一気に耳まで真っ赤になる
その様子がまた愛しくて笑みがこぼれる
「信じてくれてありがとう。打ち明けてよかった」
「僕の方こそ、教えてくれて、ありがとうございます」
「私が知って欲しかったんだよ」
「それでも、そういうものは勇気がいるでしょう?」
「……聡い子だね」
正直、血影も怖かった
嫌われるかもしれない、否定されるかもしれない
ノートンに限ってそんなことはないと信じているからこそ、不安だった
「血影」
「なぁに、ノートン」
「あの、すぐには無理だけど、ちゃんと……」
「……うん、ありがとう」
彼なりの精一杯なのだろう
いじらしくてつい抱きしめてしまった
「あ、ごめん。すぐ……」
「大丈夫、だから……」
離さないで
そう少し涙で潤んだ瞳が見上げる
あぁもう言ってもいいだろうか
「ノートン、結婚しよう」
「……へ」
突然のことで脳が追いつかないらしい
しかし元々頭の良い彼はすぐに理解し顔を赤く染める
「け、結婚って……」
「ダメかい?」
「ダメ、では……でも、お、男同士だし、あの、種族とか……」
「関係ないよ。君を愛している……その事実だけで十分ではないの?」
困らせているのはわかっている
でも退かない
「ぁ………ぅ……ぁの、その…………本当に、僕なんかで……」
「君が良いんだ、君じゃなきゃ嫌なんだ」
「……っ、う、うん……僕も、貴方と……ううん、貴方がいい……うわっ?!」
「嬉しい!嬉しいよ!ノートン!」
こんなに誰かと結ばれることが嬉しいだなんて
舞い上がり彼を強く抱きしめていた
「ち、血影、痛いよ……」
「おっと」
ごめんね、とすぐに解放され寂しいような、でも少しほっとした
うるさく脈打つ心臓を落ち着かせようと深呼吸する
「……ノートン」
「ん……な、に?」
「私達はね、結婚する時にその相手にだけ真名を明かすんだ」
「真名……?」
「君達で言うと本名だね、君に教えた血影って言うのは呼び名なんだ」
出会った日のことを思い出す
そういえば彼はあの時、ラストネームは名乗れないと言っていた
怪しくないようにラストネームと言っていたのだろう
「君だけに、教えるね」
「……はい」
「私の名前はジョゼフ……これからふたりきりの時はそう呼んでおくれ」
「ジョゼフ……貴方らしい名前ですね」
「そう?なんだかむず痒いな」
ふふ、と笑い合う
「挙式はあの教会でしようね」
「そういえばヴァンパイアなのに十字架とか平気なんですか?」
「うん?あんなもの効かないよ」
「そう、なんですね……イメージやお話とは違うんだ……」
「ちなみに日光も大丈夫だから今度デートしようか、何処がいい?」
「貴方となら何処へでも」
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