甘いお菓子
オレンジと黒に彩られて騒がしい街並み
週末にはハロウィンだと嫌でも教えてくる
そろそろか、と夕飯の準備をするのと一緒にもう1つ
窓から見える小さな子供たちを後目にノートンは去年のことを思い出していた
「ノートン、突然で申し訳ないんだけどお願いがあるんだ。勿論お礼はするよ」
「まずは話を聞きましょう?」
「今週末に街でハロウィンイベントがあるのは知っているよね?」
「えぇ、まぁ僕に縁がない話ですが」
「そのイベントなんだけど、私のスタジオも参加を強いられてしまってね」
困り顔でため息をつく彼は恋人のジョゼフ
彼は街に自分のスタジオを構えている
そのスタジオに訪れる客は老若男女問わず
たまに閑古鳥の時もあるがまぁそれなにり繁盛していた
そんな店が街のイベントに出ない事を周りが許さなかったようだ
「そんなものその辺で買ったチョコレートや飴じゃダメなんですか?」
「私だってそれで済ませたいんだが、プライドと言うのが邪魔をしてね」
「見栄っ張り」
「仕方がないだろう?少しでも店の名を売りたい」
「はぁ……それで、僕は何をしたらいいんですか」
「君に配るお菓子を作ってもらいたいんだ」
簡単な物でいいからさ、と言うジョゼフ
高級菓子でも配れば済む話をなぜ自分が作ったものがいいと思うのか
それこそ彼が言えば特注でやってくれる店だってあるだろうに
ジョゼフは出費を気にするような人では無い
だから不思議なのだ
「なんで僕が作ったものなんですか」
「以前君が作ってくれたお菓子が美味しかったからさ」
「だからって……お店には勝てませんよ」
「私が美味しいと自信を持って配るお菓子が不満を買うわけないだろう?」
どこからそんな自信が来るのか
彼が自分の手作りを気に入ってくれたのは良いことだが……
面倒だという気持ちを抱えた自分と彼からのご指名に喜んでいる自分がいる
欲目もあるのだろうがそれでも素直に嬉しくどうするかなどもう決まっていた
「礼は僕が決めていいですよね」
「もちろん。君が望むものを用意しよう」
「覚悟してください」
「お手柔らかに」
交渉は成立
明日は何を作るか考えて材料を買いに行かなくては
「ジョゼフさん、明日はおやすみでしたよね?」
「さっそく買い物かい?」
「えぇ、足と荷物持ちが必要です」
「じゃあ美味しいモーニングをやっているお店に行こう」
参考になりそうな物もあるかもしれないよ
こうして明日は朝から出ることになった
「貴方の選ぶ店はいつも美味しいですね」
「口にあったのなら何よりさ。所で買うものはこれだけでいいのかい?」
「えぇ、相手は子供ですから」
凝ったものを作ってもまともに見ちゃくれませんよ、とノートンは少し残念そうに言った
最初はハロウィンらしいデコレーションも考えたがその大量に作るとなれば時間も惜しく先に言ったように子供は見た目などお構い無し
「デコレーションは拘るだけ無駄です。なら材料を良い物にすればいい」
「なるほど。で、何を作るんだい?」
「貴方が大好きなものですよ」
「たくさんあってわからないな」
「今日もよく舌が回ること」
今まで何人の女をこれで堕としてきたことだろう
本当のことなのに、と困った顔で笑うジョゼフの姿もまた腹が立つほど様になる
車に積んだ小麦粉を顔に投げつけてやろうかとも思った
いや帰ったらやってやろう
「出来てからのお楽しみって所ですかね」
「へぇ、じゃあそうしよう」
にこりと笑い楽しみだと言う
記念日が待ち遠しい子供のように喜んでいる様子に本当に楽しみだと言っているのがわかった
なぜ僕なのかと何度も考えるが同時に僕で良かったとも思う
この顔が見られるのは自分だけ
自分まで浮かれてしまいそうになり少し顔が熱くなる
バレたらまた面倒だと誤魔化すように彼に言った
「暫くは家中甘い匂いになるので毎日貴方のコーヒーを要求します」
「oui.じゃあ良い豆を買いに行こう」
差し出された手を取る
所謂ショッピングデートと言うやつになってしまったが悪い気はしなかった
「ただいま」
「おかえりなさい」
「甘い匂いだ」
「今年も必要でしょう?暫く甘い匂いが続きますよ」
「そうだと思って……ほら、買ってきたよ」
「ありがとうございます」
「食後に飲もうか」
「はい」
さて、ここからは去年と同じ
彼と一緒に過ごす秋は慌ただしく甘く苦い
これがこれからも続けばいいと願う
彼に求める報酬にしては安いものだろう
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