「ほら、そんな所で丸まっていたら余計に暑いだろう?出ておいで」
「……やだ」
「困ったなぁ……」

今日はノートンの定期検診の日
暑い日が続き患者達も参ってしまっていたところ、中庭の噴水で水浴びをしようという提案があった
検診が終わった後みんなで入る予定だったが器材の不具合で予定よりも遅くなり彼だけ叶わなかったのだ
それですっかり拗ねてしまい部屋の隅でシーツを被って出てこない

「仕方ないだろう?また今度機会を設けるから」
「今日がよかった」
「ひとりが嫌なのかい?じゃあみんなも呼んであげるから、ね?」
「……」

まるで野良猫だ
今はそっとしておいた方がいいのかもしれない
落ち着けば話ができるようになるだろう
丁度昼寝の時間でもある
部屋の電気を消し彼に話しかける

「私は仕事に行くけど、暑くて体調を崩す前に出てくるんだよ」

返事はない

「ちゃんと顔だけでも出してね?おやすみ、ノートン」

ジョゼフはそう言い残し扉を閉める
しん、と静まった部屋
ノートンがシーツから顔を出す
そこには誰もおらず、暗闇しかなった
先程まで彼が座っていた場所に手を伸ばす
まだほんのり温かい
彼に縋るかのようにその場所へ移動し目を閉じる
起きたらちゃんと居るだろうか、そんなことを考えながらノートンは意識を手放した

「最近彼がわがままを言うようになってしまってね」
「あら、それは信頼されているという事では?」
「だといいんだが……どうも子供の相手をしているようでなんとも」
「先生から見れば皆子供でしょうに」

談笑していた看護師らに混ざり少し愚痴を零す
彼女達が言うように信頼されているのならいい傾向だが手に余る
子持ちであれば相談できたのだがここには既婚者はいない
自分で考えるしか無さそうだ

「聞いてくれてありがとう、少し楽になった気がするよ」
「また何時でもいらしてくださいね」
「はは、こう見えて私は忙しいんだよ?」
「休憩も必要ですわ」
「確かにこう暑いと休憩せずには居られないなぁ」
「そう言えば先生、先程調理場で……」

部屋に戻れば彼が寝ていた
暑かったようで頭から被っていたシーツはベッドから落ちていた

「んぅ……」
「ふふ、綺麗な大の字だ」

検診で疲れていたのだろう
いつもなら電気が着いたらすぐ起きるのだが今日は起きなかった
しかし起きてもらわなくては困る

「ノートン」
「ぅ……せ、……?」
「うん、君の先生だよ。起きておくれ」
「んんぅ……」

まだ眠く目を擦るノートン
ぐっすり眠れたようだ

「せん、せ……おはよ……」
「おはよう」
「ふぁ……ぁぁ……っ?!」
「ふふふ、びっくりした?」

大きく欠伸をするノートンが飛び跳ねる
ジョゼフがノートンの口に何か入れたのだ

「つめたい……」
「目が覚めただろう」
「な、に……?」
「ふふふ、かき氷だよ」

職員まで患者と水浴びをする訳にはいかないので、と職員様に用意されていたらしい
ジョゼフはノートンの検診で手一杯だったため知らされていなかった

「私の分らしくてね、さっきもらったんだ」
「この赤いのは?」
「シロップだね、イチゴ味らしいよ」
「イチゴ……」
「食べたかったら顔を洗ってうがいをしておいで」
「はい」

寝る前までの彼とは思えないほど機嫌がいい
時間を置く作戦は成功のようだ

「ひとつしかないの?」
「そうだね」
「じゃあ半分」
「全部君が食べてもいいよ」
「……一緒に食べたい」
「ふふ、じゃあもらおうかな」

あ、と口を開けるジョゼフ
最初は何かわからなかったノートンだがハッとしジョゼフにスプーンで掬った氷を差し出す

「冷たいね」
「美味しい?」
「うん、あ、でも皆には内緒だよ?」
「?」
「これは君と私だけの秘密だから」

シーッと指を立てれば嬉しそうに目を細める
ふたりだけの秘密、が嬉しいようだ

「先生」
「なぁに」
「嬉しい」
「うん、私もだよ」

次は君も水浴びをしようね、と約束をして甘い氷を味わった

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