世話焼き雀
任されていた仕事が予想以上に良い結果で進み早めに終わり余った時間でお土産を買いに繁華街へ足を踏み入れいつもの店へ向かっていた雀舌
すると近くで何やら揉めている声がする
「だから……」
「〜〜〜!〜〜!!」
「はぁ……どう言ったら伝わるんだ……」
どうやら海外からの客が言葉の壁にぶち当たっているらしい
ガイドも付けずに何をしているのか
いつもなら放っておくのだが今日はつい口を出してしまった
「どうかしました?」
「あ、えっと……んん……?」
「……English OK?」
「!OK!」
事情を聞いたところ自分をこの店に連れてきたガイドが突然いなくなり僅かに覚えた言葉だけで会話はしていたが限界があった
試しに英語で話してみたがさっぱりだと言われてしまい困っていた所に雀舌が来たらしい
仕方がない、と彼に変わって店主達と話をつける
「貴方が欲しがっているものは僕の店でもっと安く買えます。ついてきてください」
そう言って連れてきたのは自分の家でありこの繁華街を仕切る十三娘の店
ふわりと香が客人の鼻をくすぐる
雀舌が奥のカーテンへ話しかけると奥から女性が現れた
「妈妈!」
「おや雀、おかえり。早かったなぁ」
「ただいま、先方が良くしてくれて早く終わったんだ」
「そう、えらいねぇ。ところでそちらは?」
「あぁ、あのね……」
言葉の端々は分からないがきっと事情を説明してくれているのだろう
にこりと笑って彼女も英語で彼に話しかけた
「遠路遥々ようこそ。どうぞ好きに見て行ってください」
「ありがとうございます。あの、早速相談があるのですが」
「なんざんしょ」
「私がここへ滞在中、彼をお借りすることを許していただきたい」
「構いまへんえ、雀」
「妈妈、僕他の仕事が……」
「これも仕事、上手くやればチップもあるかもしれんよ」
「がんばります!」
チップと聞いただけで目を輝かせている
どうやら彼はお金が大好きらしい
「では早速他のものも見に出たい」
「わかりました。いってきます、妈妈」
「はぁい、行ってらっしゃい」
雀と呼ばれた彼を連れて買いたかった物をある程度揃えられた頃あれこれあって食べ逃していた腹が鳴る
幸い人混みの中でそこまで大きな音ではないから聞こえていないはず、と思っていたのだが……
しっかり聞こえていたようで彼が肩を震わせていた
「笑うことないだろう?何も食べられていないんだから」
「ふふふ、確かに……何か買いましょうか」
「ガイドさん、オススメは?」
「そうですね……割とガッツリがいいならあっち、少しでいいならあそこらへんかな」
「うーん、よくわからないから君のオススメでいいよ」
「じゃあ……」
慣れた動きでスイスイと人を縫うように先へ進み人混みへ消えて行く
まだ金を渡していないと言うのに
「お待たせしました」
はい、と渡されたのは少し熱いくらいの白くて丸いもの
ほんのり桃の香りがする
「これは?」
「桃饅頭です」
「ふぅん……あ、これで足りるかい?」
「……これじゃお釣りの方が多いですよ」
「チップとして受け取りなさい」
「どうも。気前のいい人は好きです」
にんまりと彼は笑う
「そういえば貴方は何故こんな所まで?観光客って格好じゃないですよね」
「あぁ、私は学者でね、色々と研究をしているんだ。この辺の文化や遺跡なんかを調べているんだよ」
「ふぅん……じゃあ結構長いこと滞在するんです?」
「そうだね……予定では1年ほどかな」
延びるかも知れないし早まるかもしれないけど、と彼は言った
この辺にそんな調べることなんてあっただろうか
まぁ妈妈に迷惑がかからないならなんでもいい
「そういえば貴方の名前を聞いてません」
「あぁ、忘れていたよ。私のことはイチハツと呼んでくれ」
「イチハツさん、でよろしいですか?」
「さん、も別にいらないけどまぁ好きにしたらいい」
「僕は」
「雀、だろう?」
そう呼ばれていたね、と笑いかける
メガネの奥でキラキラと光る目を細めて笑う彼の顔が綺麗で少し妈妈に似ていると思った
「……正しくは雀舌です、親しい方からは頭を取って雀と呼ばれています」
「おや、では私の場合は雀舌くんがいいかな」
「雀でいいですよ」
英語圏の人には発音しづらいでしょう?と首を傾げる
彼なりに気遣っているようだ
元々優しい人柄なのだろう
自分が滞在している間は彼と話す機会は多い
長い付き合いになるはずだ
なら彼の信頼を得て親しい間柄になって損は無いとイチハツは考える
ニコリと笑い彼の気遣いを受け取った
「では改めてよろしく、雀くん」
「こちらこそよろしくお願いします。イチハツさん」
「所で君、私と同じホテルに宿泊するって言うのは出来るかい?」
「はい?」
「何分不便が多くてさ」
頼めないかな?と袋を差し出す
その分の金は出す、と言うことだろう
「……1度持ち帰って母に聞いてきます」
「あぁ、色よい返事を期待しているよ」
イチハツをホテルへ送り届けて帰路に着く
いつもならあんなもの断るのだが何となくNoと言えなかった
大変な毎日が始まること
この時の雀舌はまだ知らない
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