嫌な予感がする、そんな匂いだ
この衣装でいると匂いに敏感になるようでなんとなくだが匂いだけで色々と分かるようになった
確かモグラ、と言っただろうか
最初は肩にいるコイツの事だと思っていた
しかしどうやら自分自身のことがモグラ、と言うなのだろう

「まさか生態まで似るなんて思わなかったなぁ」

肩から少し顔の方へ近付いてきた小さな相棒の鼻をくすぐる
嬉しいのか頬に擦り寄る
きっと可愛いだろう、その姿がほとんど見えないのは残念だ

「早く部屋に帰ろう」

でないと、帰れない気がする
そう足早に館の廊下を歩く
この鼻で危険を察知できるのがありがたい
これなら平和に部屋に戻れそうだ
そう思った矢先だった
後ろから感じる視線、空気、匂い、全てが逃げろと訴えてくる
走ろうとした時にはもう遅い
それはもう僕の後ろに居て腕を掴んでいるのだ
力いっぱいに引っ張られる腕が痛い
勢いが強く肩にいた相棒が吹っ飛んでしまった
しかし今は相棒に構っている場合ではない
自分が逃げないと
しかしそうは思っても身体が動かない
単純に相手の力が強くて動けないだけではない
これはモグラ、生き物としての本能だ
どうもできない

「くそっ……!なんで………ッ!」

なんでこんなことになったのか
いつものように試合をし、疲れたから部屋に帰ってゆっくり今日を終えたかった
それだけなのに
この衣装では視力がほとんどない
それでも自分の腕を掴むこの手が誰なのかはわかる
彼がこんなことをする人じゃないことも

「やめて……やめて、くだ……っ、ジョ……ジョゼフ…!!」

彼の名を呼ぶ
それでも掴む力は変わらない
様子がおかしい
彼に何が……?情報を得ようと使える力を全て使う
優れた嗅覚で得た情報
獣特有の香り
衣装は月下の紳士
加えて甘く、熱く、痺れるような匂い
これは……発情期と言うものだろう
彼もモチーフになった生物の生態に影響されているよう
彼から聞いた話では確か狼……
狼とモグラ、狩る側と狩られる側
力で敵うはずがなく、この状況は当然の結果だった
しかも彼は今、発情期でありとても興奮している
いつもの紳士らしい振る舞いなどどこにもない
我を忘れて本能のままに、まさに獣になっているわけだ

(彼は暴走してるだけだ……止めないと……なにか、彼から逃げ出すいい方法は……)

こちらの考えなど露知らず、ジョゼフはグイグイとノートンの身体を抱え込もうとする
しかしこっちも男だ、いくら小動物だろうと踏ん張る力はある
だが彼も狼も頭が良い
必死に踏ん張る相手をどうすればいいかなど分かっている
フッと少し力を抜くジョゼフ

「っ!……ぅ、ぁ……!しまっ……!」

反動でよろけてしまったノートン
やられた、と思った時にはもう彼にがっつりホールドされていた
そのまま抱き抱えられ、既に主張をしている自身をこれでもかとお尻に押し当ててくる
彼に求められている
こんな自分を
ハッキリと認識してしまい顔に熱が集中する
彼の乱れた息が首筋にかかる
髪に隠れた耳を彼の唇が捕らえる

「んぅ……!は、ぁ、ちょっ………まっ、て…!」

まさか、このままここで……っ?!
ここは皆が通る廊下だ
今は誰もいないがいつ人が来るかわからない状態
こんな所でされてたまるか!せめてどこか個室に…!と身をよじる
逃がさないと強く抱きしめるジョゼフの耳元で一か八か声をかける

「に、逃げる訳じゃ、ないから……!ここじゃ、いや……だっ!」

貴方の部屋がいい、と伝える
すると自分の首筋の温もりがスッと離れた
埋まっていた顔をあげたのだろう
とても小さな声でわかった、と彼は言った
よかった、と安心しているとジョゼフはノートンを横抱きに抱え直す

「舌、気をつけて」
「は……?」

カチャッと音がしてすぐ、火照った身体により冷たい空気が触れる
恐らく彼が窓を開けてそこから外に出たのだろう
サバイバーとハンターは住む舘が違う
舘内に連絡通路はあるが外からの方が早い
こちらとしてもそうしてくれた方がいい
こんな姿を誰かに見られたら、と思うとゾッとする
大人しく抱えられているとしよう
少し寒いが自分を抱く彼の体温が心地よい

なんとか誰にも見つからずに彼の部屋までたどり着いたようだ
こんなにもこの部屋は彼の匂いでいっぱいだったのか
この衣装だからわかることだろう
部屋の鍵を全て施錠する音がする
ノートンはベッドの上に優しく降ろされより強い彼の匂いに当てられたのか、興奮して熱が上がる
上着を脱ぎノートンの上に覆い被さるジョゼフ
先程のように首筋に顔を埋め、耳や首に噛み付く
甘噛みなのだろう、痛みはなく噛まれた場所がドクドクと脈打ち熱を持つ
食べられると思うほど激しい口付け
口から漏れる音が耳を犯す
そして下半身に押し当てられる彼の熱
あぁ、クラクラする
先程より熱く感じるそれ
その熱に答えるように彼の背に腕を回し、身体を寄せる
大きな背の後ろで尾が嬉しそうに動くのを感じた
あぁ、見えないのが残念だ
そう思いながら、彼から送られる熱を受け入れ自分を欲する恋人にこう囁いた

「全部 あげる」



三日三晩休むことなく食べられた
後に彼はそう語った

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