あぁ、どうして気付かなかったのだろうか
あんなに一緒に居たのに
彼の想いを今思い知る

「流浪、この後時間あるかい?」
「貴方が仕事を残していないならありますよ」
「じゃあ、私の部屋で待ってておくれ。話があるんだ」
「わかりました」

なんだろう
彼からの話なんて仕事くらいしかないはず
しかし仕事の話なら部屋に行く必要は無い

「……お茶、入れておこう」

仕事を終えて部屋に戻れば良い香りがする
彼が入れたのだろう

「ただいま」
「おかえりなさい」

用意された紅茶を彼と飲む
他愛もない話をしていればもうすぐ日付が変わる時刻

「あの、剣……話って……」
「うん……もうすぐだから、待ってね」

彼は日付が変わるのを待っているようだった
明日はなんの日だっただろうか
思い出せないでいるとカチリと針が進む
日付が変わった

「変わったね。流浪、誕生日おめでとう」
「へ……ぁ、そう、か……今日……」
「もしかして、自分の誕生日を忘れていたのかい?」
「ゔ……仕方ないでしょう」
「毎年祝ってるって言うのに」
「ぁ……そういえば血影様は……」

いつもなら彼も一緒に祝ってくれる
だが今回は彼の姿が見えない

「外してもらったんだ。大事な話をするからね」
「?大事な話……?」

血の剣が立ち上がり流浪の手を取る
窓辺に案内されそこで彼が膝を着く

「流浪……私と、番の契りを交わして欲しい」
「……ぇ」

番……つまり、伴侶になってほしいと言われていた

「な、なにを……冗談ならタチが悪いですよ」
「冗談なものか。私は本気だよ」

彼の目が嘘ではないと言っている
でもどうして
どうして自分なのか

「……いつから」
「君と出逢った時からずっと。決めていたんだ」
「そんな、昔……」

もう何年も前ではないか
初めて会ったあの日、あの日ずっと想われていたと言うのか

「君が違う人を連れてきたら諦めようって思ってた時期もあるんだよ。君が幸せならって……でも、あの時、決めたんだ」

流浪の火傷を撫でる
あの時、この火傷が出来た事件のことだろう

「守るんだ、って」
「つる、ぎ……」
「君に絶対悲しい思いをさせない。私が幸せにするんだってね」

だから、と流浪の手の甲に口付ける

「ぼ、僕は男だよ」
「知っているよ」
「子供とか、出来ないよ」
「必要ない。君がいればそれでいい」
「周りに、なんて言われるか……」
「みんな知っている」
「……」
「私が君を番に迎えると、みんな知っているよ」

なんという事だろうか
自分以外はみんな、彼の気持ちを知っていた

「そ、そんな……でも、だからって……」
「……やはり、嫌かな?」
「い、嫌とか、そうじゃなくて……」

嫌ではない
むしろ嬉しいのだ
いつか、誰かを伴侶として迎えるのだろうと思っていたから
自分はそのときはどうするかと考えていたのに
まさか自分が指名されるなんて

「い、いの……?僕で……」
「君がいいんだ……君でなきゃ、ダメなんだよ」

顔に熱が集まる
こんなに嬉しいことはない

「あ、あの……剣……」
「なぁに」
「僕、あの……貴方の、事……」

自分の気持ちに蓋をしていた
でも、必要ない
そう思ったら、止まらなかった
彼の手を取りしゃがみこむ
目線を合わせ、しっかり目を見て告げた

「貴方の事が、好きです……」
「嬉しい……じゃあ、返事は」
「はい……僕で良ければ……」
「あぁ!良かった!流浪……」

抱き締められる
彼の腕の中は心地が良い

「私の言葉を繰り返して」
「はい」

儀式が始まる
丁度部屋の窓に月明かりが入る瞬間だった

「“血の剣……君を生涯の伴侶として、私の名を示す“」
「“流浪……貴方を生涯の伴侶として……僕の名を示す“」
「“我が名はジョゼフ“」
「“我が名は、ノートン“」

しん、と静寂がふたりを包む
なにかある訳でもなく、ただカチカチと時計の音がするだけだった

「はい、終わりだよ」
「なんか、思ったより簡単なんだね……」
「まぁね……でも」

流浪の頬へ唇を寄せる

「これで、君は私の番だよ」
「貴方も、ね」
「ふふ」

見つめ合いキスを交わす
擽ったいような気がして笑みが零れた
窓から月を見る
いつもと同じはずなのに
今日は特別な気がした

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