まだ先の話
契りを交わして早数年
今日も異変はなく穏やかな日々が流れていく
あの子と過ごす毎日が愛おしい
何度目かの春を迎え暖かい日差しがまたより一層そうさせる
まだ魔典が見つからないのは難点だがそれもどうでも良くなるほど幸せだと思う
窓から風を入れ訪れた眠気を振り払う
コンコン、とノックがしてどうぞと答える
ドア越しからいい香りがする
「失礼します」
「休憩の時間だよ、剣」
入ってきた流浪と血影の手には紅茶とクッキーがあった
もうそんな時間か、と筆を置く
「通りで眠くなる訳だ」
「君が眠くなるなんて珍しいね。夜遅かったの?」
「いえ、いつも通りでした」
「春だからかなぁ……」
3人で談笑するこの休憩が最近の楽しみである
仕事の報告も兼ねているから休憩とも言い難いが
「疲れてるのかもね、君の仕事量は私たちより多いから」
「またですか」
「仕方ないだろう?」
確かに2人に任せられない仕事がある故に1人だけ仕事量は多くなる
こればかりは仕方がないと割り切っている2人だが不満はある
「回せる仕事は回してって言ってるじゃないか」
「わかっているんだけどついね」
「つい、じゃありません」
「最近はちゃんと終わるようにしてるから許しておくれ」
前よりは抱え込まなくなったなら、とその件は許してはくれたが流浪はまだ別の不満があるようだ
「仕事じゃないなら夜どこに行っているんですか」
「ぇ……」
「夜中に部屋を出ていくでしょう?」
「いや……少し、ね……」
たまに寝ている流浪を置いて部屋を出る
まさか起きていたとは
「少し、なんですか」
「えっと……少し風に当たりたくて……」
「そんなのベランダでいいじゃないですか」
「起こしちゃったら悪いと思って……」
ジッとこちらを見る流浪
嘘はついてないと分かると引き下がる
「……はぁ、ちゃんと寝てください」
「努力はするよ」
一部始終をクッキーを食べながら黙って見ていた血影は何かを察したようだ
飲み干したカップの片付けをしている流浪に聞こえないようこっそり話しかける
「ねぇ剣」
「なんだい」
「まだ、なの?」
「……そうだけど」
「なるほどねぇ……」
ニッコリと笑う血影
茶化すつもりは無さそうだが笑顔が怖い
「大丈夫だと思うけど反動で壊さないようにね」
「君じゃあるまいし」
「私だって壊してなんかないよ」
「どうだろうね」
君はお気に入りの物をすぐ壊してしまうから、と言えばプクッと頬を膨らませる
「そんなことしないよ!あの子のことは……っ!」
「あの子?」
「ぁ……なんでもない!」
急いで口を塞ぐ
どうやら彼にも相手が見つかったようだ
「ふふ、壊さぬよう精々頑張ることだね」
「〜〜〜ッ!余計なお世話です!!」
「なんですか、突然大声で」
「なんでもない!」
「もう……喧嘩も程々にしてくださいね」
喧嘩じゃない、とふたりで否定すればよかった、と笑う流浪
そろそろ仕事を再開しなければ
「さぁ、仕事に戻るよ」
「はーい」
先に部屋を出ていってしまった血影
後を追って出ようとする流浪がそうだ、と振り返る
「剣」
「なんだい?」
「なにをしているのかは聞かないけど……僕はもう、子供じゃないよ」
「わかっているよ、my boy」
「……ならいいです」
言わないで居てくれているとわかっている
待たせているんだと言うことも理解している
それでも
「この私が怖い、なんてね……」
気付けば早数年
今日はどうだろうか
自分に問いかける
が答えはない
「意気地無し」
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