「流浪、ちょっとおいで」
「なんでしょうか」

血影に呼ばれ駆け寄る
彼の机の前に立つとドン、と大きな箱を置いた
あげる、とだけ言って中身がなにかは言わない

「自分の目で確かめるといい」

何を勿体つける必要があるのだろうか
恐る恐る箱に手を伸ばす
心配を他所に箱にはなにも仕掛けはなくすんなり開いた
中には赤と銀色の丸い輪っかがふたつ
手に取ったら案外重かった
よく見ると赤色が着いているのは半分でふたつは全く同じものだ

「これは……磁石ですか?」
「うん、そこら辺のものより強力だから扱いには気をつけてね」
「はぁ……でも何故これを僕に?」

彼が自分に菓子や衣服を贈ることはままあるがこれに関しては本当にわからない

「血の剣と話し合ったんだけどね、君は私達みたいに武器を持っていないだろう?」

そう言って血影は何も無い空間から剣を出す
確かにそういった能力があるのは純血種だけで混ざりものの自分には何も無い
だからいざと言う時のために体を鍛えている

「私や血の剣以外が君に勝てるとは思わないけれど向こうは何をするかわからないだろう?」
「人間側の武器も様変わりしましたからね」
「そ、だから君にピッタリなものを用意したって訳」
「磁石が、ですか?」

磁力が強いだけの磁石がどう自分に合うのだろうか
なにか仕掛けがあるのかとマジマジと見るが見つからない

「モノは試しだ、扉の前まで下がって」

ひとつは自分で持ち、もう片方は私の方に投げろと血影が言った
言われた通りにすると投げた磁石が血影の体に張り付く

「対極を私に向けてもう少し此方へ来て」
「はい……う、わ……ッ?!」

突然グンッと体が前に引かれる
それは彼も同じようで部屋の中心まで引き寄せられた

「っ、と……正常に作動してるね」
「びっくりした……前もって教えてよ……」
「体験した方が早いだろう?」

ね、と悪びれもなくニッコリと笑った
今回は血影が抱きとめてくれたが相手が彼でなかったら大怪我をしただろう
でも多分彼が磁石を選んだ理由は何となくわかった

「接近戦持ち込む時に使えますね」
「それもいいけど吹き飛ばして障害物に叩きつけてもいいと思うよ?使い方は無限さ」
「なるほど」
「君は頭がいいからきっと私達でも驚く使い方をするだろうね」
「それはどうでしょう」

磁石を回収し箱に戻す
不思議なことに箱の中で磁石同士が引っ付くことはなかった
金属を引き寄せることもせず人に張り付いてやっと作動する仕組みのようだ

「そうそう、その磁石はね、最大限3つまで増えるよ」
「ふ、増える……?!」
「大体の1分弱かな?ぽこんって」
「いやいやいや……」

道理がわからない
増える……?生きているのだろうか

「どこでこんなものを……」
「さてね、材料を持ってきたのは血の剣だから私は知らない」
「怖いなぁ……」

本当に持っていていいものなのだろうか
不安になってきた流浪に血影が声をかける

「大丈夫だよ、彼が選んだものが君に害を与える訳ないじゃない。君だってわかるだろう?」
「……えぇ、まぁ……」

血の剣は流浪に対して未だに過保護だった
そんな彼が選んだものが安全なことは承知しているが……

「正体が不明すぎるんですよ」
「私が加工している時だって大丈夫だったから平気さ」
「貴方や血の剣と僕とじゃあれこれ違いますが」
「大丈夫大丈夫」

きっと血影は途中から考えるのをやめたのだろう
訳の分からないものをもらってしまった
流浪は深いため息を着く

「これでも譲歩した方なんだよ」
「そうでしょうね」
「わかってるじゃないか」
「僕はあの人の伴侶ですから」
「ふふ、逞しいな」

大切にするんだよ、と血影は言う
例えどんなものでも彼らからの贈り物に間違いはない
部屋に戻り落ちないよう机の上に置く

「自分を傷つけることの無い武器、ね……」

流浪にぴったり、と言う言葉はきっとそういう意味もあるのだろう
血影も大概過保護なのだ
誰もいない部屋でまたひとつ深いため息を着く
同時に背後の時計が鳴った

「もうこんな時間か」

流浪は急いで部屋を出ていった
向かったのはキッチン
湯を沸かし戸棚から今日の茶葉に合う菓子を探す

「……今日はこっちにしよう」

選んだのはバウムクーヘン
お茶も飲み頃になっただろう、とトレイに乗せて彼の書斎へ向かう
一呼吸置いて扉をノックする
中から彼の声が聞こえた

「失礼します」
「いらっしゃい」

血影は既にソファに腰掛けて待っていた
まだ仕事をしていた血の剣が顔を上げニコリと笑う
その顔が好きだと自覚したのは最近
緩みそうになる口元を抑えて彼に言う

「お茶の時間ですよ」

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