準備
朝日が顔に降り注ぐ眩しさで目を覚ました
柔らかいベッド、心地の良い風と朝日を浴びながら今日が始まる
「これは贅沢なことだ……」
「そうとも、まだ仕方がないとはいえ使用人が主人より遅く起きるなど最高の贅沢だ」
仏頂面で部屋に入ってきたのは今日から仕えることになったこの屋敷の主人、ジョゼフだった
「ぁ……おはよう、ございます……ジョゼフ様……」
「おはよう。仕立て屋が来る前に顔を洗ってこれに着替えなさい」
そう言って彼はノートンにタオルと服を渡す
「身なりを整えたら私の部屋に」
「わかりました」
洗面台へ行き顔を洗う
鏡で己の顔を見ればクマが少し薄くなっていた
「睡眠って大事なことなんだな……」
渡された服に腕を通し変なところはないかと確認する
サイズが合わないものはどうしようもないがきっちりしていなければ言われそうで
「細く見えるけど、僕より一回り大きいんだな……」
袖のフリルで手が隠れてしまうほど彼と自分には体格差があるようだ
火傷が見えないのはいいけどなんとなく悔しくなる
袖を捲り彼の部屋へ向かう
扉をノックすれば入れ、と声がする
そこにはもう仕立て屋がいた
「おまたせしました」
「早くこっちへ来い」
「はい」
呼ばれて彼と仕立て屋の傍まで行く
グイっと腕を掴まれ客人の方へ寄せられる
「先程話した新しい使用人だ。何着か頼む」
「畏まりました」
手際良く採寸されていく
測り終わればジョゼフと生地や色について話し始めた
その間自分はなにをしたら良いのか分からず立ち尽くす
そのまま待っていると話が終わったらしく仕立て屋は帰っていった
「あの、服のお代は……」
「これは私が支給するものだ。お前に請求するつもりはない」
そこまで要求されたら、と心配だったがどうやら大丈夫なようだ
ホッと胸をなでおろす
「2、3 日もあれば仕上がるだろう。それまでお前の仕事はこの屋敷を覚えることだ」
彼が屋敷の鍵と地図を手渡してきた
ジャラジャラとついた鍵を見て部屋数の多さを知る
「気に入った部屋が有れば好きにしていい。私の部屋以外はお前にくれてやる」
「案内しては頂けないのですか?」
「……お前は主人を使おうと言うのか」
「これは雇主の義務かと」
ジッとジョゼフを見つめる
見つめ返すジョゼフの口角が上がる
「ははっ……その通りだ。やはりお前にしてよかった」
「……?」
「なんでもはいはい言うことを聞くだけのお人形は要らないと言うことだ」
スタスタと部屋を出ようと扉へ向かう主人を目で追いかける
「なにをしてる?早く来い」
「はい」
怒らせただろうかと顔を覗き込むと彼の顔は笑みを浮かべていた
昨日から仏頂面しか見ていなかったからだろうか
すごく綺麗でつい見惚れてしまった
「私の顔を覚えることも大切なことだが今は屋敷を覚えてもらいたいのだが?」
「っ!す、すみません……!」
ふふ、と笑う彼がまた綺麗で目のやり場がなく照れてしまう
そんなことなど知らない上機嫌な主人と日が暮れるまで屋敷をゆっくり歩いた
back
top