この屋敷に来てからしばらく
支給された服を纏い今日も仕事をこなす
最初は広すぎる屋敷を覚えることもままならなかったノートンだが今では自分の庭のような気持ちで歩く
窓から差し込む日差し
よく晴れている日はつい外に出たくなる

「今日のティータイムは庭でしよう」

そうと決まれば手入れをしなくては
少しでも荒れていれば彼は来ない
以前使ってからそう時間は経っていないはず

「がんばるか」

彼とのティータイムまであと2時間

「こんなものかな」

1人分の席を用意し試しに座ってみる
定期的に来るガーデナーのおかげで景色は問題ない
後はこの場に合う茶葉とスイーツを選ぶだけ
庭に咲くバラには何が合う?
今日の彼の気分は?
悶々としながら廊下を歩けば目の前に居た主に気付かずぶつかってしまった

「君の目や頭はタダの飾りなのかい?」
「申し訳ございません。考え事に夢中でした」
「物事を真剣に考えるのは良い事だが周りが疎かになるのは良くないよ」

危ないだろう、とまるで親が子を叱るように窘められてしまった

「気を付けます」
「よろしい。所で、今日はやけに汚れているようだけど?」
「ぁ……え、と、本日のティータイムは庭でしようと思いまして……」
「あぁ……なるほどね」

あれを磨いていたのか、と窓からガーデンテーブルを見る
遠くからでもわかるほどそれらは綺麗に整えられていた
今日は天気がいいからきっと最高のティータイムになるだろう

「そろそろ時間だけど……今の君を同席させる訳にはいかないな」
「はい、わかっています。用意を済ませたらすぐに……」
「来なさい」

ノートンの返事など聞かず彼の首根っこを掴みバスルームへ投げ込んだ
元々入るつもりでは居たからいいがそこまで汚れていただろうか、と疑問に思う

「僕は別にいいけど……今日は自分で用意するのかな……」

主ならそれくらい出来るだろうと確信がある
本人がいいと言ったようなものだし、と厚意に甘えて今は体を休めようとシャワーに手をかけた
湯が出る前にガラッと戸が開く音がする
見れば自分と同じように一糸まとわぬ姿の主がそこにあった

「……え」
「なんだい?」
「いや、なんで……」
「私も汗をかいたからね、ティータイムは気持ちよく過ごしたいんだ」

ジョゼフは綺麗好きだから言っていることはわかる
納得も出来る
しかしなぜ

「だからって一緒に入ることは無いでしょう?僕は出るので貴方が先にどうぞ」
「気にする事はない。一緒の方が早く済むし」
「そういう訳には……」
「私がいいと言っている」

それを言われたらノートンは何も言えない
仕方なく出ることは諦め髪を洗おうとしたノートンだったが
シャンプーに伸ばした手は遮られふわりと髪に泡が乗せられた
キョトン、としている間に主人の細くて長い指にノートンの髪が絡まる

「な……っ!自分で洗います!」
「こら、暴れたら危ないだろう?」
「僕は子供じゃありません!」
「そうだね、幼子の方がまだ大人しい」
「〜〜〜ッ!!」

たまにあるこの人のこういう所がよく分からない
大人しく洗われるしかないのだが落ち着かなくてソワソワする

「主人に洗われる従者なんて……」

ブツブツと文句を言えば鼻歌を歌いながら洗う主の口が開く

「以前から君の洗い方には物申したくてね、良い機会だ」
「……そんなんだから変わり者だと言われるんですよ」
「他人の評価など瑣末な事だ」

変わり者の主人を持つということはこういう事だよ、とまで言ってのける
自分のことをよくわかっているからこそタチが悪い
とんだ主に買われたものだと毎日のように思う
髪だけではなく体も何もかもを洗われてしまった
一通り思い通りに洗えて満足した彼がマジマジと人の体を見る

「……あの、なにか……」
「いや、立派なものだと思ってね。色々」
「セクハラですよ」
「褒めてるんだよ」

ため息が出る
なんでこうなんだろうか

「さぁ、次は君の番だよ」

そう言って自分に背を向ける
洗えと言っているのだろう

「僕は貴方のように綺麗に出来ませんよ」
「もちろん1から教えよう。これからもしてもらうのだから」
「は?」
「がんばって覚えることだ」

なんて自分勝手な主なんだろうか
拒否権が無いことは分かっているがせめて文句は言っておこう

「引っかき傷だらけになっても知りませんからね」
「お転婆な猫だこと」

今日もまたひとつ、仕事増えた

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