暑い夏の日のことだった
あまりの暑さに何もかもが煩わしく思えひとりになりたいとジョゼフはふらりと普段は立ち寄らないビーチへ足を踏み入れる
どこかにパラソルを立てて本を読もうかと辺りを見回すと波打ち際に打ち上げられているような格好をした先客がいた

「なんだいあれは……死体の処理などしたくは無いのだけれど……」

見つけてしまった以上は見に行かなくてはならない
いくら勝手に死んでいたとしてもここはジョゼフの所有するプライベートビーチで誰も入れない場所に死体があるなんて事になったら疑われてしまうだろう

「暑さに頭がおかしくなって飛び込んだのか、ここいらを渡る船から落ちたのか……どちらにしても生きているのなら有難い話だ」

顔を覗き込むと自分よりも随分と若そうな男だった
左目から頬にかけて火傷があり鼻にはピアスのような物が通っている
よく見れば彼はしっかりと息をしていた
胸が上下に動きこちらの心配を他所に気持ちよさそうに寝ているだけだった

「はぁ……この男は一体どこから入ったんだか」

足を水に浸けていれば暑さも和らぐと考えたのだろうな、と彼の下半身へ視線を動かす
そしてジョゼフは目を見開いた

「は……いや……いやいやいや……えぇ……?」

何度も何度も繰り返し見るがそこにあるものは変わらなかった
寝ている男の下半身は魚のようなものでつまり御伽噺によく出てくる人魚と言える
信じられるわけがない
しかし目の前の光景に嘘はなかった
真実がどうであれまずは男をどうするかも考えなくてはならない

「叩き起こして追い出すのは構わないのだけれど……この暑い中でこうも気持ちよさそうに寝ている奴を起こすのは可哀想だな」

仕方がない
ジョゼフは手に持っていたパラソルを開き彼の顔や上半身が陰に入るようにしてやる

「これでもう少し涼しいだろうよ」

自身も男の横へ座り足をつけてみる
存外気持ちがいい

「へぇ……こういうのも悪くないな」

ここなら落ち着いて過ごせそうだ、とポケットから持ってきていた本を取り出した
しばらくは本に夢中だったがたまに視界に入る尾に意識が向いてしまい内容が頭に入ってこない
諦めて本を閉じチラリと見れば隣の男はまだスヤスヤと寝ている
起きたら話しかけてみようか、どんな反応をするのだろうか
そんなことを考えていると先程よりも日が高くなり彼の尾にも日光が当たるようになった
乾いたら困るのだろうか
わからないがなんとなく、そう、なんとなくだ
自分が持っていたストールを海水に浸し掛けてやる
見ず知らずのよく分からないやつを甲斐甲斐しく世話をする日が来ようとは
きっとこの暑さのせいだ
そう自分に言い聞かせジョゼフはまだ眠る男を見つめ続けていた

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