いつもの様に誰も来ない浜辺で寝ていた
いつもと同じ、そう思っていた

ザザ、と押し寄せる波が手袋を濡らす
その冷たい感覚がノートンを現実へ引き戻した
しかし眠気が残っているせいでなかなか瞼が開かない
瞼を閉じていたって眩しく感じるものだが今日はその限りではない
もしかしてもう夜なのだろうか
しかし夜にしてはまだまだ暑い
どういうことだ?と重い瞼を無理矢理開く

「あ、起きた」

声がした
ここには自分以外いないはず
バッ、と目を見開く
陽の光でキラキラと光る銀色
それを束ねる落ち着いた黄色
海や空を映したかのような青色
全てが眩しくてとても美しいとノートンは思った
彼の奥には白いパラソルが見える
なるほど、影になっていたから眩しくなかったのか

「聞こえているかい?」
「……ッ!」

マジマジと見ている場合ではない
なんでこんな所に人間がいるんだ
起き上がろうと体を動かすと自分の体から何が落ちた
青地に金色の刺繍
いかにも高そうなストールだった
誰の、など考えなくてもすぐわかる
しかしなぜ自分の上に?と首を傾げる

「あぁ、乾いたらよくないのかと思って」
「別段問題はありませんけど……」
「そう?あ、でも少しは涼しかっただろうよ」
「それは……まぁ、確かに」

そうだろう、と彼は笑った
これを塩水につけるだなんて、とノートンは少し気まずくなる
自分に弁償出来るようなアテはない
そんなことを考えているのが顔に出ていたようでジョゼフは優しい口調で話す

「気にしなくていいよ、たくさんあるし何なら君にあげよう」
「は、……?いや、そんな……」
「もらってくれたら君のことは黙っててあげる」
「……なんて脅しですか」
「君には得しかないよ」

薄々感じてはいたがこの人は性格が悪い
しかしそれ以上の弱みを握られているノートンは相手に合わせるしかない

「わかりました」
「利口な子は好きだよ」
「そういえば、貴方は僕を見てどうも思わないんですか」
「そりゃ驚いたさ、最初は水死体かと思ったけどまさか人魚がこんな所で寝ているなんて」

そういうことを聞いている訳ではないのだが……
しかし彼が自分を売るつもりがないのだと言うことは察しがついた

「さて、君も起きたことだしそろそろ私は帰るとしよう」
「僕が起きるまでここに居るつもりだったんですか」
「何か問題でも?」
「この場所は私有地でしょう?」

ここは大富豪で暇な老人が気まぐれに買った土地だと聞いている
独占欲が強いようで自分以外は立入禁止にしたらしい
だから誰も来ないと踏んでノートンはここを昼寝場所に選んでいるのだ
彼はどう見ても老人ではないと判断した
自分と同じように忍び込んで来たのだろう
しかし彼の返答はノートンの想像を超えた

「私の、ね」
「ご冗談を。ここを買ったのは老人だって聞いてますよ」
「それ、私はまだ60を超えたばかりなのに老人呼ばわりとは失礼な噂だと思わないかい?」
「え……60……?20の間違いでは……」
「おや、お世辞でも嬉しいね」

くらくらする
まだ夢を見ているのだろうか
目の前の男は自分と同じか少し若いくらいだと思っていたのに
自分のような人外なら分からない話ではないが彼はどう見ても人間だ
生命の神秘と言うのだろうか
ノートンがウンウンと悩んでいるとジョゼフは本当に帰るようで身支度を始めた

「君はゆっくりして行くといい」
「いえ……僕もそろそろ帰ります」
「そうかい?次来る時には今まで以上に人が来ないように手配しておくよ」
「へ」

変な声が出た
もうここへは来てはいけないと思っていたからだ

「……どうして」
「君はこの場所を汚さないし、何より私が君を気に入ったからさ」

君が必要ならあの辺に小屋でも立てようか、などと言ってくる始末
ジョゼフが楽しそうに言うものだからつい笑ってしまった

「ふふ、変な人」
「よく言われるよ」
「でしょうね……それでは」
「待って。名前、教えてよ」
「……また会えたら、その時教えますよ」

そう言ってざぶんっと大きな音を立ててノートンは潜った
その飛沫でジョゼフは全身が濡れてしまった
ポケットに入れていた本も無事ではない

「……本は弁償してもらおうかな」

そう呟いてジョゼフも屋敷へと帰っていった

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