「まだ魔典は見つからないのか」

そう苛立ちを隠さずに告げる血の剣
あれさえ手に入れれば、そうボヤくのもいつもの事

「私の眼もそこまで万能ではないので」

魔典探しを手伝わされている彼は言う

「私に見えるのは少し先の未来だけ。それに…」

そんなものがなくても貴方は十分強いではないですか
備えはある方がいいのさ
そう、何があるかわからないのだから

「今回はもういい。城へ戻る」

わからないものは仕方がない
ならば彼にもう用はない
そうですか、お気をつけて
心にも思ってないくせに

「では失礼するよ」

そう言って扉を開け出ていこうとすると

「あぁ!言い忘れていることがありました!」

と、大きな声でわざとらしく呼び止める

「今日は歩いて帰るといいでしょう。貴方の伴侶となる者と出逢うでしょう」

こいつは何を言っているんだろうか
そんなことより早く魔典を見つけて欲しいのだが…

「……どうも」

一応礼は言って彼の家を出た

「伴侶、ねぇ……」

見た目は若くても一族の中では長く生きている血の剣だが実は伴侶を迎えたことがない
見合いだの、言い寄ってくる女は居たが興味が無いので全て断っていた

「番うことになんの意味があると言うのか…」

バカバカしい、と思う。が…
彼の先見は当たる
だから頼っているのだ

「……物は試し、か」

言われた通りに少し歩いてみることにする
これで何も無かったら覚えていろよ、とボヤきながら普段は通らない森を歩いていく

「こんな光のない暗い森に私の相手が居るなんて、信じ難いな」

歩けというなら出会う場所はこの森だろう
出会うのなら早くしてほしい
手入れのされていない道を歩くのが嫌になってきた血の剣
はぁ、とため息をつき諦めて飛ぼうとマントを広げる
すると、わぁ……と奥から小さな声がした
なんだろうか、声のした方へ行く

「誰かいるのかい?」

木の後ろに居るのだろう、覗き込む
そこには小さな子供がいた
銀色の髪、血色の悪い肌
同族だろう、顔を見ようと子供の正面へ行く

「わっ……、っ!いった、い……」

その子供は目の前に彼が来ると思っておらず、驚いて木に頭をぶつけたようだ
痛くて足元でうずくまってしまった
これでは顔が見えない

「忙しい子だなぁ」

仕方ないとひょいっと持ち上げる
服が汚れるのは嫌だった
汚れなどを払い、抱き上げた子供の頭を撫でてやる

「ほら、もう大丈夫だよ」
「あ、ありがとう……ございます……」

どうして自分がこんな子供の世話をしているのか
自分でも分からないが、なんとなくこの子を見捨ててはいけない。そう感じる血の剣
少し俯き気味だった彼の髪を流し顎を掬って上を向かせる

「ぁ……」

黒い目に赤い瞳がこちらを見る
恥ずかしいのか少し頬を染めていた

「あぁ、君は……」

この子の顔を見た瞬間に全てを理解した
先見の占いは当たる
この子こそ私の伴侶になる子だろう
そう、わかるのだ

「あ、あの………?」
「…あぁ、すまないね。なんでもないよ」

それより

「君、行くところがないのなら今日から私と暮さないかい?」

ポカン。と口を開け目をぱちぱちとする私の愛し子
混乱していたようだがやっと理解し、嬉しそうな顔をした

「ぃ………いい、の……?」
「もちろん」

おいで
そう言って彼は小さな体を優しく抱きしめた

「私は血の剣と言う。君は?」
「え、あ……あの、ない、です……」
「ない?」

親から呼び名を貰わなかったようだ

「ぁ………名前なら、」
「おっと。本名をおいそれと教えてはいけないよ」

大事なものだからね
あっ、と慌てて自分の口を塞ぐ仕草が可愛らしい
しかし呼び名がないのは困る
なんて呼べば……そうだ、ないのなら、私が与えればいい

「よし、私が決めてあげよう」

そう言うとキラキラとした目でうん!と返事をする

「そうだね……"流浪"なんてどうかな?」

今日の私と君にピッタリだと思うんだけど、と言う

「るろ、う…?」

恐らく意味が分からないのだろう

「ん……わからないけど、悪い意味じゃないなら…」
「じゃあ決まりだ。君は今日から流浪だよ」

さぁ、私たちの家に帰ろうか
彼を抱き直しマントを広げ飛び立つ
すごいすごい!とはしゃぐ彼がとても愛おしい

私の流浪
今はまだわからないだろうけれど
いつかちゃんと、正式に私の伴侶として迎え入れよう
君はもう

私のものだ


「お城……血の剣は偉い人なの?」
「うん?そうだね、一応一族の長をしているよ」
「血の剣、様……」
「そんな堅苦しいのは嫌だな」
「……じゃあ、ちー様」
「ちー様?」
「うん……ちー様、……ダメ?」
「ふふ、構わないよ」
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