治らない傷
「いってきまーす!」
「いってらっしゃい」
今日は流浪ひとりであの森へ行く
所謂お使いだ
一緒に、と言ってもひとりで行くと言って聞かないのだ
血影すら着いてきちゃダメ!と怒られてしまう
仕方がないのでひとりで行かせることにした
もちろん血影の蝙蝠がちゃんと見張っている
森へ消えて行く流浪の背中を見つめる
あんな事件があった後だ
警戒範囲は広げているが何があるかはわからない
「大丈夫だよ」
「だと良いのだけれど……」
「さ、私達も仕事をしないと帰って来た時に言われちゃうよ」
「ふふ、そうだね」
あの子を信じて待つとしよう
ふたりは仕事をするためそれぞれの書斎に消えていった
「え、っと……この道を、こっち!」
普段血の剣と一緒に来る時の記憶を辿る
幼い頃に住んでいた森だから迷わない!と自信を持って進む
ちゃんと出来るのだと、血の剣と血影に認めてもらいたいのだ
「あれ?君は……」
ピルルルル、と流浪の元へ1羽の鳥が舞い降りる
「お兄さんの所の!どうしたの?迷子?」
クルッと鳴いて返事をする
「大丈夫だよ!僕ね、今からお店に行くから一緒に行こう!」
ご機嫌な様子で彼女を肩に乗せる
彼女が護衛で来たとはまだ幼い流浪は気付かない
いい天気だね、今日のご飯はなんだろうね、と彼女と話しながら歩く
店に着きそうだと言う時に突然彼女が自分の目を塞ぐように飛んだ
「わ、ど、どうしたの……?前が見えないよぉ……」
何がなにやらわからず彼女に嫌われたのかと泣きそうになる
「お良しなさい。私なら大丈夫ですから」
聞いたことの無い声がする
彼女はその声の主の方へ飛んで行った
「初めまして、お客人」
その声の主は背が高く、店の扉より大きかった
血の剣や血影も大きいが彼は更に高い
「どうか怒らないでやってほしい。私のためを思ってした事ですので」
「ぁ……怒らない、よ……?」
「ありがとうございます。私が他人に姿を見られたくない物で、この子は助けようとしてくれたのですよ」
「ぇ……ぁ、見ちゃった……ごめん、なさい……」
「いえいえ、良いんですよ。ただ今日ここであったのは秘密にしてくだい」
「!はい!誰にも言わない!」
「ふふふ、いい子ですね。では私は帰りますので。ごゆっくりどうぞ、剣の子」
「ん、ばいばい」
手を振り彼を見送る
「あれ……?あの人、なんで僕のこと知ってるんだろう?」
初対面のはず
なんでだろう?と頭を悩ませていると後ろから声をかけられた
「お待ちしておりましたよ。流浪様」
「あ!お兄さん!こんにちわ!」
「こんにちわ、おひとりでここまで偉いですね。さぁ、中へどうぞ」
「えへへ!お邪魔します!」
招かれるまま店に入る
頼まれたお手紙や物を渡し仕事は完了
出されたお茶を飲み干す
「ごちそうさまでした!」
「お粗末さまです。すぐ帰られますか?」
「うん、遅くなったら心配してお迎えが来ちゃう」
「それは困りますね。今からなら日が傾く前に帰れるでしょう」
「お兄さん、またね!」
「お気をつけて」
流浪を見送り店に戻る
受け取った物を確認していると彼の未来が少し見えた
これはあまりいい未来ではない
「……血の剣様へ」
彼女へ伝言を託す
見えた未来は変えられない
しかしまだ幼い頃彼には酷な未来だった
「どうか、間に合いますように……」
祈りが届くことを願う
暗くなる前に帰らないと
急ぎ足で城へ向かう
「あの、すみません」
「……?」
声がする方を見る
そこには深めにフードを被った若い男性がいた
当たりを見ても誰もいない
どうやら自分に話しかけているらしいと気付く
「……誰?」
「あの、実は旅の途中、近道をしようと森へ入ったら迷ってしまって……道がわからないのです」
「迷子?それならね……」
「差し支えなければ、案内をお願い出来ないでしょうか……?」
「でも、僕もあんまり詳しくないよ……?」
「構いません!分かる道に出るまでで結構ですから!」
「うーん……じゃあ、そこまでだよ」
「ああ!ありがとうございます!」
その様子を蝙蝠を通して見ていた血影
「うーん……一応、連絡した方がいいかな」
机にある受話器をとる
「“もしもし“」
「剣、流浪がね……」
今見た光景を説明する
過保護すぎるかも知れないが分からないものは仕方がない
「“警戒を怠らないで。何かあったらすぐお願い“」
「わかった」
通信をきる
様子を見ようと言う結論
「大丈夫、だよね……」
心配で仕事に手が付かない
それは血の剣も同じようだった
流浪は困っていた
困ってる人を助けるのはいい事だが帰る時間が遅くなる
自然と足早になってしまう
そのせいで自分でも少し迷いそうになっていた
「こ、この道!私が来た道はここです!」
「本当?よかった!じゃあ道案内はここまでね!」
「ええ!ありがとうございました!」
「ううん!気をつけてね!」
少し日が傾き始めていた
迷子の人間と別れ、自分も早く帰ろうと走る
「急がなくちゃ!……ちー様、褒めてくれるかな?」
ちゃんと仕事をこなし、人助けもした
褒めてくれたら嬉しいな、とウキウキした気持ちだった
「楽しそうだね」
耳を劈く銃声
鳥が一斉に空へ舞い上がる
放たれた弾は流浪の足を捉えた
「ぃ、ああああッッ!!!」
「いやー、何日も張っててよかったぜ」
「なん、で……!いたい、痛いよぉ……」
「ははっ!君にはまだコレが効くんだ!無駄にならなくて良かった」
茂みからゾロゾロと同じような拳銃を持った人間が現れた
ニヤニヤと笑い流浪を囲むように前へ出る
彼が逃げないように、と四肢に弾を撃ち込まれる
悲鳴と銃声が響く
「ぅ………ふぇ、ちー様ぁ……痛いよぉ……」
泣く流浪を見てゲラゲラと笑う
流浪はただただ痛みに耐えるしか出来なかった
「剣!!!」
血影が血の剣の部屋へ駆け込む
そこには先見の使いである彼女と彼がいた
「ご苦労さま。気をつけておかえり」
すい、と腕を外に向けると彼女は主の元へ帰っていった
「血影」
「国境の近く。数は7」
「ありがとう」
彼女から状況は聞いているのだろう
彼女と血の剣が飛んで行った空を見る
月が登り始めた
「……ッ!しまった!!」
急いで血の剣へ通信を繋ぐ
「剣!急いで!今日は!!」
「“わかっている!“」
空を飛ぶ彼の目の前にデカデカと顔を見せる月
今日は満月だった
「流浪……!絶対、絶対に、ダメだよ……!」
急ぐ血の剣
嫌な予感がする
あぁ、今日彼をひとりにするんじゃなかった
痛い
幼い流浪はまだ自己治癒が上手く出来ない
痛い
傷口が熱を持ちジクジクと鈍く痛む
日が暮れ人は火をつける
松明を持ち彼を囲み幼子が虫を殺すかのように流浪へ弾が放たれる
もう叫ぶ気力がない
声を上げなくなりつまらなくなった人間達はいい事を思いついたとばかりに騒ぎ出す
(なに、言ってるんだろう……)
ぼーっとする頭
突然目の前が明るくなる
「バケモンのくせに人間みてーな顔してよぉ」
「な、に……?いた、ぃ、……っ!あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!」
「こっちの方がお似合いだってーの!」
「おら!バケモンらしくしてやったぞ!」
ギャハハと笑う
顔が熱い
何かが焼ける匂いがした
(なんか、喉……渇いた、な……)
焦点の合わない目が人間の腕を見つめる
どこかで怪我をしたようで血が滲んでいた
(……血が……あれ、ほしい……)
動かない体を無理矢理動かすのは本能
意識が遠い
仲間との会話に夢中な彼に流浪の牙が刺さった
「いっ、てぇな!なにんす……」
ジュルルと音を立てて血が吸われていく
皆血の気が引いた
仲間が吸血鬼に血を吸われている
人間たちは慌てて引き離そうとした
「てめぇ!!」
「離せバケモノ!!」
「あ゙……あ゙あ゙……たす、け……」
ドシャリと男が倒れる
流浪が彼の血を全て吸ったのだ
次の腕に噛み付く
「ひっ……!は、離せ!離せよぉ!!助けてくれ!誰か!!だれ、か……あ゙……」
またひとり倒れる
「美味しくない、な……でも、喉……渇いた……」
ゆらりと人間の方へ歩いていく流浪
彼が怖くなり銃を乱射する
「それ、やだ」
流浪が手をかざすと銃がグシャリと歪む
悲鳴を上げ使い物にならなくなった銃を捨て皆逃げる
誰も居なくなったそこにひとり立つ流浪
「……痛いの、治った……」
段々と意識がはっきりしてきた
足元に転がる塊
「……ぁ、これ…………ぼ、く……が……?」
怖くなる
吸血行為は血影や血の剣から禁止されていた
約束を破った上に殺めてしまった
森に響く叫び声
それは血の剣の耳に
森の奥のあの店に
しっかり届いていた
「流浪……っ!」
声がした方向へ急ぐ
たどり着いたそこには先見の使いから伝えられた光景が広がっていた
「流浪……」
「ぁ……ちー、様……ぼく、ごめ……っ、ごめんな、さ……っ!僕……やくそく……このひと、しんじゃっ……!」
「大丈夫。大丈夫だよ」
「いた、いの……いや、で……ひっ……のど、渇いて……それで……気付いたら……こう、なってて……」
「うん、うん……」
震え泣きじゃくる流浪を優しく抱きしめる
血を吸ったことで体の傷は癒えたが心までは癒えない
頭をと背中を撫でる
「怒らないよ、大丈夫」
「でも、僕、悪い子だもん……」
「謝れる子はいい子だよ」
「……ほん、と……?」
血の剣の顔を見ようと顔を上げる
「っ!流浪!その顔……!」
「か、お……?」
彼の顔、左目の周りに大きな火傷が残っていた
本来なら治癒するはず
おそらく未熟な彼の体が治せなかったのだろう
「……火傷になっているんだ」
「ぁ……そこ、火、当てられたの……」
「なんてことを……痛かったね」
ぎゅぅ、と抱き締める
「もう、大丈夫……もう痛く、ないよ……」
「……治るといいけど……」
「う、ん……」
俯く流浪を抱き上げる
いきなりのことでわ、と声を上げ血の剣にしがみつく
「さぁ、帰ろう。血影が待ってる」
「うん……」
「血影だって怒らないよ」
「本当……?」
「本当だとも」
帰る、と血の剣にしっかり抱き着く
ふわりと浮かび森の上に出る
下を見ればもうアレを処理する先見の姿が見えた
「ちー様……」
「なぁに」
「僕、お仕事ちゃんと出来たよ……困ってる人、助けてあげたの……」
「そう……よく出来ました。いい子」
頭を撫でてやる
嬉しそうに笑って流浪は血の剣の腕の中で意識を手放した
「いっぱい、頑張ったね……」
彼の顔に残った火傷を優しく撫でる
「間に合わなくて、ごめんね……」
back top「いってらっしゃい」
今日は流浪ひとりであの森へ行く
所謂お使いだ
一緒に、と言ってもひとりで行くと言って聞かないのだ
血影すら着いてきちゃダメ!と怒られてしまう
仕方がないのでひとりで行かせることにした
もちろん血影の蝙蝠がちゃんと見張っている
森へ消えて行く流浪の背中を見つめる
あんな事件があった後だ
警戒範囲は広げているが何があるかはわからない
「大丈夫だよ」
「だと良いのだけれど……」
「さ、私達も仕事をしないと帰って来た時に言われちゃうよ」
「ふふ、そうだね」
あの子を信じて待つとしよう
ふたりは仕事をするためそれぞれの書斎に消えていった
「え、っと……この道を、こっち!」
普段血の剣と一緒に来る時の記憶を辿る
幼い頃に住んでいた森だから迷わない!と自信を持って進む
ちゃんと出来るのだと、血の剣と血影に認めてもらいたいのだ
「あれ?君は……」
ピルルルル、と流浪の元へ1羽の鳥が舞い降りる
「お兄さんの所の!どうしたの?迷子?」
クルッと鳴いて返事をする
「大丈夫だよ!僕ね、今からお店に行くから一緒に行こう!」
ご機嫌な様子で彼女を肩に乗せる
彼女が護衛で来たとはまだ幼い流浪は気付かない
いい天気だね、今日のご飯はなんだろうね、と彼女と話しながら歩く
店に着きそうだと言う時に突然彼女が自分の目を塞ぐように飛んだ
「わ、ど、どうしたの……?前が見えないよぉ……」
何がなにやらわからず彼女に嫌われたのかと泣きそうになる
「お良しなさい。私なら大丈夫ですから」
聞いたことの無い声がする
彼女はその声の主の方へ飛んで行った
「初めまして、お客人」
その声の主は背が高く、店の扉より大きかった
血の剣や血影も大きいが彼は更に高い
「どうか怒らないでやってほしい。私のためを思ってした事ですので」
「ぁ……怒らない、よ……?」
「ありがとうございます。私が他人に姿を見られたくない物で、この子は助けようとしてくれたのですよ」
「ぇ……ぁ、見ちゃった……ごめん、なさい……」
「いえいえ、良いんですよ。ただ今日ここであったのは秘密にしてくだい」
「!はい!誰にも言わない!」
「ふふふ、いい子ですね。では私は帰りますので。ごゆっくりどうぞ、剣の子」
「ん、ばいばい」
手を振り彼を見送る
「あれ……?あの人、なんで僕のこと知ってるんだろう?」
初対面のはず
なんでだろう?と頭を悩ませていると後ろから声をかけられた
「お待ちしておりましたよ。流浪様」
「あ!お兄さん!こんにちわ!」
「こんにちわ、おひとりでここまで偉いですね。さぁ、中へどうぞ」
「えへへ!お邪魔します!」
招かれるまま店に入る
頼まれたお手紙や物を渡し仕事は完了
出されたお茶を飲み干す
「ごちそうさまでした!」
「お粗末さまです。すぐ帰られますか?」
「うん、遅くなったら心配してお迎えが来ちゃう」
「それは困りますね。今からなら日が傾く前に帰れるでしょう」
「お兄さん、またね!」
「お気をつけて」
流浪を見送り店に戻る
受け取った物を確認していると彼の未来が少し見えた
これはあまりいい未来ではない
「……血の剣様へ」
彼女へ伝言を託す
見えた未来は変えられない
しかしまだ幼い頃彼には酷な未来だった
「どうか、間に合いますように……」
祈りが届くことを願う
暗くなる前に帰らないと
急ぎ足で城へ向かう
「あの、すみません」
「……?」
声がする方を見る
そこには深めにフードを被った若い男性がいた
当たりを見ても誰もいない
どうやら自分に話しかけているらしいと気付く
「……誰?」
「あの、実は旅の途中、近道をしようと森へ入ったら迷ってしまって……道がわからないのです」
「迷子?それならね……」
「差し支えなければ、案内をお願い出来ないでしょうか……?」
「でも、僕もあんまり詳しくないよ……?」
「構いません!分かる道に出るまでで結構ですから!」
「うーん……じゃあ、そこまでだよ」
「ああ!ありがとうございます!」
その様子を蝙蝠を通して見ていた血影
「うーん……一応、連絡した方がいいかな」
机にある受話器をとる
「“もしもし“」
「剣、流浪がね……」
今見た光景を説明する
過保護すぎるかも知れないが分からないものは仕方がない
「“警戒を怠らないで。何かあったらすぐお願い“」
「わかった」
通信をきる
様子を見ようと言う結論
「大丈夫、だよね……」
心配で仕事に手が付かない
それは血の剣も同じようだった
流浪は困っていた
困ってる人を助けるのはいい事だが帰る時間が遅くなる
自然と足早になってしまう
そのせいで自分でも少し迷いそうになっていた
「こ、この道!私が来た道はここです!」
「本当?よかった!じゃあ道案内はここまでね!」
「ええ!ありがとうございました!」
「ううん!気をつけてね!」
少し日が傾き始めていた
迷子の人間と別れ、自分も早く帰ろうと走る
「急がなくちゃ!……ちー様、褒めてくれるかな?」
ちゃんと仕事をこなし、人助けもした
褒めてくれたら嬉しいな、とウキウキした気持ちだった
「楽しそうだね」
耳を劈く銃声
鳥が一斉に空へ舞い上がる
放たれた弾は流浪の足を捉えた
「ぃ、ああああッッ!!!」
「いやー、何日も張っててよかったぜ」
「なん、で……!いたい、痛いよぉ……」
「ははっ!君にはまだコレが効くんだ!無駄にならなくて良かった」
茂みからゾロゾロと同じような拳銃を持った人間が現れた
ニヤニヤと笑い流浪を囲むように前へ出る
彼が逃げないように、と四肢に弾を撃ち込まれる
悲鳴と銃声が響く
「ぅ………ふぇ、ちー様ぁ……痛いよぉ……」
泣く流浪を見てゲラゲラと笑う
流浪はただただ痛みに耐えるしか出来なかった
「剣!!!」
血影が血の剣の部屋へ駆け込む
そこには先見の使いである彼女と彼がいた
「ご苦労さま。気をつけておかえり」
すい、と腕を外に向けると彼女は主の元へ帰っていった
「血影」
「国境の近く。数は7」
「ありがとう」
彼女から状況は聞いているのだろう
彼女と血の剣が飛んで行った空を見る
月が登り始めた
「……ッ!しまった!!」
急いで血の剣へ通信を繋ぐ
「剣!急いで!今日は!!」
「“わかっている!“」
空を飛ぶ彼の目の前にデカデカと顔を見せる月
今日は満月だった
「流浪……!絶対、絶対に、ダメだよ……!」
急ぐ血の剣
嫌な予感がする
あぁ、今日彼をひとりにするんじゃなかった
痛い
幼い流浪はまだ自己治癒が上手く出来ない
痛い
傷口が熱を持ちジクジクと鈍く痛む
日が暮れ人は火をつける
松明を持ち彼を囲み幼子が虫を殺すかのように流浪へ弾が放たれる
もう叫ぶ気力がない
声を上げなくなりつまらなくなった人間達はいい事を思いついたとばかりに騒ぎ出す
(なに、言ってるんだろう……)
ぼーっとする頭
突然目の前が明るくなる
「バケモンのくせに人間みてーな顔してよぉ」
「な、に……?いた、ぃ、……っ!あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!」
「こっちの方がお似合いだってーの!」
「おら!バケモンらしくしてやったぞ!」
ギャハハと笑う
顔が熱い
何かが焼ける匂いがした
(なんか、喉……渇いた、な……)
焦点の合わない目が人間の腕を見つめる
どこかで怪我をしたようで血が滲んでいた
(……血が……あれ、ほしい……)
動かない体を無理矢理動かすのは本能
意識が遠い
仲間との会話に夢中な彼に流浪の牙が刺さった
「いっ、てぇな!なにんす……」
ジュルルと音を立てて血が吸われていく
皆血の気が引いた
仲間が吸血鬼に血を吸われている
人間たちは慌てて引き離そうとした
「てめぇ!!」
「離せバケモノ!!」
「あ゙……あ゙あ゙……たす、け……」
ドシャリと男が倒れる
流浪が彼の血を全て吸ったのだ
次の腕に噛み付く
「ひっ……!は、離せ!離せよぉ!!助けてくれ!誰か!!だれ、か……あ゙……」
またひとり倒れる
「美味しくない、な……でも、喉……渇いた……」
ゆらりと人間の方へ歩いていく流浪
彼が怖くなり銃を乱射する
「それ、やだ」
流浪が手をかざすと銃がグシャリと歪む
悲鳴を上げ使い物にならなくなった銃を捨て皆逃げる
誰も居なくなったそこにひとり立つ流浪
「……痛いの、治った……」
段々と意識がはっきりしてきた
足元に転がる塊
「……ぁ、これ…………ぼ、く……が……?」
怖くなる
吸血行為は血影や血の剣から禁止されていた
約束を破った上に殺めてしまった
森に響く叫び声
それは血の剣の耳に
森の奥のあの店に
しっかり届いていた
「流浪……っ!」
声がした方向へ急ぐ
たどり着いたそこには先見の使いから伝えられた光景が広がっていた
「流浪……」
「ぁ……ちー、様……ぼく、ごめ……っ、ごめんな、さ……っ!僕……やくそく……このひと、しんじゃっ……!」
「大丈夫。大丈夫だよ」
「いた、いの……いや、で……ひっ……のど、渇いて……それで……気付いたら……こう、なってて……」
「うん、うん……」
震え泣きじゃくる流浪を優しく抱きしめる
血を吸ったことで体の傷は癒えたが心までは癒えない
頭をと背中を撫でる
「怒らないよ、大丈夫」
「でも、僕、悪い子だもん……」
「謝れる子はいい子だよ」
「……ほん、と……?」
血の剣の顔を見ようと顔を上げる
「っ!流浪!その顔……!」
「か、お……?」
彼の顔、左目の周りに大きな火傷が残っていた
本来なら治癒するはず
おそらく未熟な彼の体が治せなかったのだろう
「……火傷になっているんだ」
「ぁ……そこ、火、当てられたの……」
「なんてことを……痛かったね」
ぎゅぅ、と抱き締める
「もう、大丈夫……もう痛く、ないよ……」
「……治るといいけど……」
「う、ん……」
俯く流浪を抱き上げる
いきなりのことでわ、と声を上げ血の剣にしがみつく
「さぁ、帰ろう。血影が待ってる」
「うん……」
「血影だって怒らないよ」
「本当……?」
「本当だとも」
帰る、と血の剣にしっかり抱き着く
ふわりと浮かび森の上に出る
下を見ればもうアレを処理する先見の姿が見えた
「ちー様……」
「なぁに」
「僕、お仕事ちゃんと出来たよ……困ってる人、助けてあげたの……」
「そう……よく出来ました。いい子」
頭を撫でてやる
嬉しそうに笑って流浪は血の剣の腕の中で意識を手放した
「いっぱい、頑張ったね……」
彼の顔に残った火傷を優しく撫でる
「間に合わなくて、ごめんね……」