「もう……おしまいかい?」 「はっ?」 「あれでおわりなの?」 ドクターは、立香がキスしたときの、そのままの距離で言った。心なしか苦しそうに、恨みがましそうに、眉をひそめながら。 ドクターの頬はすでに固定されていない。なのにドクターは立香から距離をとろうとはしなかった。 おあずけを食らってしまえば待つことしかできない。 必死に理性を保ちながら待っているのか。目の前にあるごちそうを。 「……レオナルド、その、一旦部屋から出てもらえる」 「おやおや? 予想外の展開」 「そういうのいいから」 「はいはい、それじゃあ邪魔者は大人しく退散」 「えっ ダヴィンチちゃん?! ちょっとドクタ、んむ」 後頭部を引き寄せられ、あと少しだった距離はドクターによって縮められた。 押しつけられるように重なった唇は熱い。真夏の砂浜みたいに熱くて、乾いている。乾いているのは欲しているものがあることの証拠だ。 はからずも舌と舌が触れ合ったのを合図にドクターに火がついた。舌が触れ合い、絡み合うたびにドクターは立香を押し倒していく。 「んっ、ふはっ! ちょ、ロマっ、んっ」 さながら獲物に食らいつく肉食獣。立香の唇を貪る。 オトコのありありとした欲に気圧されて、立香の背中はどんどん後ろに反っていった。もうこれ以上は曲がらない限界のところで立香はドクターの胸部をでしでしと叩くと、やっとのことで、それでも名残惜しそうに離れていった。 「んはっ、はっ、はっ、苦しいよバカドクター……!」 「……立香ちゃん」 「ん? な、なに?」 「立香ちゃん……立香、ちゃん」 「……ロマン?」 「……ハハッ、ダメだよ。そんな誘うような声でオトコの名前を呼んじゃ」 ……今思うとあの液体は、惚れ薬というか、もっと単純に媚薬とかそういう類いのものだったのではないかとダヴィンチ印を疑いにかかっている。 それはともかく“魔法使い”だと思っていたオトコは全然魔法使いとかじゃなく、しいていうならオオカミやらの部類いにあたるオトコで、そりゃ魔法の薬なんて効かないよなあ〜〜〜〜とロマニ・アーキマンの腕のなかでうとうとしながら立香は思うのだった。 ← |