「異三郎……!」 それがわたしの最後の記憶。 最後の色。最後の空。最後の音。 最後にみた景色。 あの日から、わたしの世界はモノクロのままだ。 ◇ 「何してるアルか」 ざくり、ざくりと砂利を踏む音。振り向くとよく見慣れたチャイナ服姿の少女がいた。 「あなたこそこんなところで。探してるわよ、他の万事屋たちが」 「違うネ。探されてるのはノブたすヨ。銀ちゃんが呼んでこいって」 「……そう」 江戸の町は──もう “町” とは呼べなくなってしまったけれど、どこもかしこも瓦礫の山。道はガラスの破片で埋まり、血の色で染まってる。 そんな町で、生き抜いた者がいた。 それ以上に傷ついた者がいた。壊れたものもたくさんあった。 この町も、野兎の少女が住まう歌舞伎町も、何もかもが変わってしまったように思える。ただ川の水だけは、顔色ひとつ変えず、淡々と、滞りなく、ただ流れつづけていた。それがひどく気に入らなかった。 川沿いの道は幾分被害が少なかった。河原に座り込んだまま動かずにいると、少女は何も言わずに隣に座る。呼んでこいと言われたそうだが、それにしては悠長な態度だ。 「せんちめんたる〜じゃ〜あ〜に〜」 「……私は16じゃないわ」 少女は傘をさしていた。いつもの和傘。たしか先端からは銃弾がでる。 夕日が炎々と燃えていた。その炎は空の青を焼き、目の前を流れる川の水をも朱で染めた。ぐらぐらと。沸沸と。 陶器のような少女の肌は夕日を透過する。傘は少女を夕日から遠ざけた。だけど少女は、夕日の色がよく似合う。 「何も変わらないアルな、きっと」 「そう? 私にはすべてが変わってしまったように見える」 「そういうことじゃないネ。何が変わっても、何が消えても、犬畜生がどうなろうと陽は昇って、沈んでく。その繰り返し。変わらないネ」 鼻の穴に指を入れながら、気だるそうに少女は言った。 その癖はきっと、あの男に影響されたものなのだろう。そんな癖がついてしまうまで、あの連中はともにいて、互いを見つづけてきた。朝も昼も夜も、雨の日も風の日も、世界が終わりかけた今日も。 きっと数えきれないほどの夕日を見たのだろう、3人で。 「……変わってほしくない?」 「さあナ。ノブたすは?」 「私は……知らない。夕日は好きじゃない」 「そうアルか」 「あなたは? 好きなの? 野兎なのに」 「……さあナ。でも、夕日を見るとアイツらを思い出す。つぎ夕日を見たときは、きっとノブたすのこと思い出すヨ」 鼻をほじりながら少女は去っていった。 ざっく、ざっく。 「ノブたすも早く来いヨー、銀ちゃん待ってるから」と振り返らずに言って、ひらひらと手を振る。そんな不器用な態度も、きっとあの男譲りだ。やさしさが下手くそなのはあっちの眼鏡。 ぴょんと土手を飛んでいき、彼女の姿はもう見えない。 「……そう」 悲しいことばかりなのに、いやにすっきりとした気分だわ、異三郎。 ← |