春のおわりのそぞろ雨



 チャキッチャキッと鎧の金属音が意外にも雨音によく馴染んだ。

 深夜に降りだした雨は、朝になっても止まなかった。
 傘をさして緩やかな上り坂を歩いていく。道沿いの銀杏並木は若々しい緑に染まっているものの、今日にかぎっては雨水を滴らせる。
 チャキッチャキッと地面を踏みしめる鎧の音は、わたしとは一定の距離を置いたところで鳴っていた。有り体にいえばわたしの右斜め後ろを歩く青い騎士。降る雨は彼のブリテンの王さえも等しく濡らした。

「セイバー」
「なんでしょう、立香」

 わたしが止まると同じようにセイバーもそこで止まる。だから結局わたしたちの距離が縮まることはない。
 適切に──わたしに言わせてみれば奇妙にひらかれたこの距離は、友だちのそれでもないし、他人のそれでもない。
 これは彼女が騎士であるが故の主従の距離感だ。
 一歩引いたところで主を護衛する従者のそれ。わたしには決して干渉せず、かといって傍観する気もない。そういう距離が置かれていた。
 つまるところ、そうでしかないのだ。わたしたちは。
 少し考えてから道を戻ってセイバーに近づいた。それから彼女をさした傘のなかに入れる。

「……立香」
「ん?」
「立香、私に傘は必要ありません」
「いーの」
「しかし、」
「いいから」

 我が儘だと愛想をつかされてしまうのだろうか。
 セイバーは大人しくわたしの横を歩きはじめた。傘のなかで、わたしのすぐ隣で。
 チャキッチャキッと金属音が雨音よりも耳に響く。
 わたしの体の半分は濡れるようになってしまったけど、代わりにセイバーの体の半分は濡れなくなった。この小さな傘では不十分かもしれない。でもそれでよかった。

「セイバー」
「はい」
「その、今日は雨だし、何か美味しいものを食べにいきませんか」
「……いい、ですね。ええ。雨だろうと風だろうと美味しい食事はいいものです」
「じゃあ、そうと決まればまずは洋服選びからだ。鎧じゃちょっとね。どうせだからわたしも着替えちゃおう」
「はい。しかし立香。衣類は着替えれば済みますが、あなたの場合は濡れたままでいると体を壊しかねませんから、」
「駅まで競争!」
「あ! こら立香! 傘をちゃんとさしてください!」

 曇天の下、駆け出す少女たちを尻目に雨は降りつづけるままだった。